建築雑誌オールレビュー

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2010年07月30日(金)

[日経アーキテクチュア]7月12日号 [日経アーキテクチュア]

[日経アーキテクチュア]7月12日号・日経BP社・1300円


◇住宅特集[独創プランの賃貸集合住宅] 【★★★☆☆】

 新築であればすぐ満室になっていた賃貸集合住宅の時代は過去の話で、今の市況は厳しい。今回の特集では、そんな厳しい時代を生き抜くために考えられた、独創プランをもつ賃貸集合住宅3件が紹介されている。

 CASE 01 「12のストゥディオーロ」(MM1221)
 設計:小嶋一浩+赤松佳珠子/CAt

 CASE 02 「alp」
 設計:平田晃久建築設計事務所

 CASE 03 「Tokyo Apartment」
 設計:藤本壮介建築設計事務所


 CASE 01 12のストゥディオーロ(MM1221)
 通勤時間に何時間もかけているような人が平日に寝るためだけに帰る場所。「12のストゥディオーロ」は、そんな現代社会のニーズに答えるような「セカンドホーム」として、最寄り駅から徒歩5分圏内という好立地に建てられた。

 1戸当たりが広過ぎると、家賃が高くなって入居の確保が難しくなる。逆に敷地まるごと1棟の集合住宅にすると、今度は買い手を見つけるのが困難となる。これは発注者である不動産会社、アールエイジ代表の向井山社長の事業思想だ。

 事業収支を考えて提示された条件をもとに、この集合住宅はあえて極小にするため、一つの敷地を二つ分け、5層の中に6戸の住戸が入った棟をそれぞれ配置した。

 それぞれの敷地面積は約30平米で、そこに建つ各棟も、5層に6戸の住戸を入れた。このため、住戸面積が小さいものは約10平米程度の、メゾネット中心の極小プランとなった。

 「ユニークなプランは入居者に長く住んでもらえる」という向井山氏は、意匠に関しては設計者に一任するという。

 常に竣工した後のことを考えている向山氏は、設計中、メンテナンスのしやすさには注意している。すぐ補修を必要とするようなものでは投資家に売り込めないからだ。

 「12のストゥディオーロ」は2棟を満室にしたあと、それぞれ個人投資家に 売却することをにらんだ事業計画にドライブされた作品である。

 CASE 02 「alp」
 駅から遠いという立地条件の理由から、空間の個性を売りにしたのが「alp」。既成概念にとらわれない建物を期待されて設計したのは、指名コンペを勝ち取った平田晃久氏。

 RC造でコンクリートの重厚感を持つ、11戸あるこのオーナー住居併設賃貸集合住宅は、通常、建物外側にある外部階段を、建物の中央部分に入り込ませている点が特徴。その階段は、仕切り壁がほとんどない室内に、天井や壁に突き出るような形として現れ、開放感のある洞窟のような内部空間を提供している。

 CASE 03 「Tokyo Apartment」
 これは6つの家型をずらして積む「3層3住戸」+「オーナー住居」という構成になっている集合住宅である。

 都内における市場競争で生き抜くためには普通の物件では勝負できない。個性的な物件をつくるには、建築家に頼むしかない。「あなたの作品をつくってほしい」として仕事を依頼されたのは、北海道出身の建築家、藤本壮介氏。

 資金調達の難航から計画は縮小され、着工に至るまで3年がかかった。工事が始まってからも、複雑な木組からくる予想を超える作業量から、工期も伸びてしまうなど一筋縄にはいかなかったようだ。

 しかし、オ−ナーは建築家、藤本壮介の「東京感」が投影された作品性の高い建物の出来に満足している。

 紹介された3作品は、どれも小規模でありながら、商品として面積以上の付加価値を建築家に期待していた点が共通している。凡庸になりがちな集合住宅というビルディングタイプであるが、紹介された3作品から、集合住宅の「可能性」を感じた。




◇シリーズ [ストック再生の時代] 【★★★☆☆】

 今回このシリーズでは、外付け耐震ブレースを改修後の「顔」として活用する改修プロジェクトと、廃校の再生改修プロジェクトが取り上げられている。

 サーラコーポレーション社の創立100周年記念事業の一環として全面改修することになった「サーラ浜松」。改修を手掛けるのは、「リファイン建築」の改修手法で知られている青木茂氏。この改修プロジェクトには、注目すべき特徴が2つある。

 改修するにあたり、まず旧耐震基準の構造を補強することが不可欠となる。そこで青木氏は、建物を耐震ブレースで包む、「スパイラル・ブレースト・ベルト補強」と呼ばれる補強方法を選択した。

 この方法は、直下の基礎に負荷が集中する従来の耐震ブレースと比べて、建物全体に地震力が分散され、個々の基礎への負担も小さくて済むのが特徴だ。実は、今回のような耐震ブレースの使い方は、世界でも例がないらしい。

 この改修プロジェクトの注目すべき、もうひとつの特徴は、補強を意匠にも生かした点である。耐震ブレースの外側にガラスのカーテンウォールを取り付け、補強を意匠に生かすことで、建物に付加価値を与えた。

 「再生の施工技術」では、既存技術を適材適所に使い分ける方法を、この改修工事のポイントとなる詳細個所を取り上げて、紹介している。

 文部科学省によると、2002年度以降に廃校となり現存する施設のうち、活用されているのは65%。廃校の活用が進まない理由に用途地域の制約がある。そんな現状の中、範例となるようなプロジェクトが紹介されている。

 「3331Arts Chiyoda」
 2005年3月に廃校となった中学校が、教室をギャラリーなどに改修され、人や社会に開かれたアートを体感できる施設として、今年6月にグランドオープンした。食堂もギャラリーになり、プールは公園に、そして職員室は正面のオープンスペースに変わった。

 「仲町小学校跡施設」
 廃校となった小学校は、第一種中高層住居専用地域であったため、当初は、これだけの規模で体育施設を含む複合施設への用途変更は認められなく、苦労した。しかし、なんとか建築審査会から同意を得られて、福祉センターとスポーツ施設、精神障害者社会復帰センターの3つからなる複合施設に生まれ変わった。

 「吉本興業東京本部」
 再生する学校の施設で、その利用法が限定されていたのが体育館。08年に旧四谷第五小学校に移転してきた吉本興業は、今年3月に体育館を会議室に改修した。各部屋をパーティションで区切り、ユニット化し、利用契約が終了した後にも使用できるように転用可能な会議室となっている。

 1981年に「新耐震基準」が制定されてから、すでに29年。それ以前に完成した、「旧耐震基準」で設計された古い学校を中心に、耐震改修が少しずつ進められている。ただし、その多くは開口に耐震ブレースが剥き出しという、意匠的に残念なものになっている。

 そこに、青木茂氏による、斬新なサーラ浜松改修プロジェクトである。これにより、ブレースを取り付ける耐震改修の意匠に、新たな可能性が見えた気がする。




◇トピックス [自動回転ドア、再起動へ] 【★★★☆☆】

 2004年、六本木ヒルズで起きた自動回転ドアによる死亡事故が発生した。その後、自動回転ドアは「絶滅種」となりつつあった。事故以前に、国内では年間100台だった回転ドアの発注数は、今では2台程度に激減しているという。

 その後、自動回転ドアの事故防止対策に関するガイドラインが作成され、安全性に関する規格も制定された。

 企業側も、事故から教訓を学んで、ドアそのものの軽量化や回転速度を遅くする対策を施してきた。また、万が一誰かが挟まれても、扉自体が折れて衝撃を吸収する、「折れる機構」を取り入れるなど改善を行なってきた。

 企業は安全対策をアピールしているが、一度、「危険」というレッテルを貼られた製品が、リバイバルするのは容易ではない。

 しかし、環境建築への関心の高まりを背景に、自動回転ドアが見直されつつある。そして、省エネ性能を算定するプログラムの開発が、メーカー担当者と明治大学建築学科の酒井孝司教授のチームで、2011年の完成を目標に進められている。

 このプログラムが完成すれば、自動回転ドアの省エネ性能を客観的に立証できるようになり、自動回転ドア復活の「礎」になるかもしれない。




[今号の評者、建築&住宅メディア研究会 吉川 彰布]

◇吉川 彰布(よしかわ あきのぶ)
現在、東北大学博士課程後期(建築学専攻)に在籍し、研究活動を行なっている。主要テーマは「建築における自然摸倣の歴史」について。米国、ニューヨークにあるプラット・インティテュート大学の建築学部を卒業し、カリフォルニア大学ロサンゼルス校にて修士課程を終了。その後、ロサンゼルスの設計事務所Nakada+Associatesに3年間勤務し、2009年の末に帰国。

◇建築&住宅メディア研究会
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Posted by 管理者 at 11時30分

2010年07月29日(木)

[商店建築]2010年7月号 [商店建築]

[商店建築]2010年7月号・商店建築社・2040円


◇[特集]チャペル&バンケット【★★★★☆】

 結婚式や披露宴を執り行うチャペルやバンケットについて、16の事例を紹介する大特集です。特にレストランや料亭、ボーリング場や家電量販店など、さまざまな出自のウエディング施設があることに驚かされます。

 そんな転用系の施設を紹介する記事「リノベーション、コンバージョンによるウエディング施設の開発手法」では5つの事例を取り上げ、設計者へのヒアリングを通じて施設転用の心得をまとめています。

 その手法は、元の施設のよさを生かすといった、いわゆるリノベーションに主流の方法とは縁遠いもの。地域の人々に知られている以前の施設のにおいを払拭し、なるべく非日常を演出することが必要なようです。

 しかしコンバージョンも施設タイプによっては業種ごとに関わる法規への対応がネックになることが多いと聞きますが、さまざまな転用事例がありそうなウェディング施設の場合はどんな状況なのでしょうか。気になります。




◇[レポート特集]アンティークアイテムでつくる世界観【★★★★★】

 アンティークアイテムの仕入れや活用法を紹介する特集。古材や廃材をつかった店舗デザインの事例は多く、骨董品などを好むインテリアデザイナーも多いと聞きますが、意外にもこれまであまり見られなかった切り口です。

 デザイナーに限らずバイヤーや店舗ディレクター、ファッションデザイナーなど、さまざまな立場から集まった9人の目利きが店舗とアンティークアイテムと店舗づくりについて語り尽くしています。インタビューを中心とした構成ですが、事例と合わせて紹介しており、アイテムをどう使うのかもわかります。

 特にバイイングを手がける冒頭3名の話は非常に面白いです。ザ・ビンテージハウスの齋藤博和氏、カジャの渡邊広美氏、NITEN OSAWA ARCHITECTの大澤二天氏。アンティークアイテムの歴史やトレンド、入手手法までかなり突っ込んだ話をしています。

 またエイジの佐藤一郎氏がスーパーポテト在籍時(1984〜96年)の古材・廃材入手事情について話しています。これも興味深い。




◇[特集]工場へ行こう!「稲田白御影石」ほか【★★★★☆】

 年明けにリニューアルしておよそ半年。今月号は連載が粒ぞろいの面白さです。特に「稲田白御影石」を取り扱った「工場へ行こう!」では採石場のビジュアルをメインに石の加工現場を擬似体験できます。テキストも面白く「東京の街を作った稲田の『白御影石』」の項目では、近代建築の顔を作る素材として発見され、日本銀行などの壁を彩った」……などと稲田白御影石の輝かしい歴史にも触れています。

 また「戦後インテリアデザインクロニクル」は内田繁氏へのインタビュー。桑沢デザイン研究所の創設者・桑沢洋子氏の人脈が「アイ・シー・オール」の編集経験で築かれていることや、内田繁氏も学生時代に「Japan Interior」の編集をアルバイトで手伝っていたことなど、興味深いエピソードがいっぱい。





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[今号の評者、建築&住宅メディア研究会 平塚桂]

◇平塚桂(ひらつかかつら)
ライター。主に建築について一般誌中心に執筆。たかぎみ江とともに[ぽむ企画]として活動。京都で12年間過ごした後2005年に上京。京都ではデザイン書店「Sfera Archive」店長なども経験。

◇建築&住宅メディア研究会
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2010年07月28日(水)

[チルチンびと]7月号 [チルチンびと]

[チルチンびと]7月号(No.61)・風土社・980円


◇特集[直す、繕う、再生する] 【★★★☆☆】

 副題は「大切にしたいものがあったから」。住まいを大切に再生しながら住み継ぐ、いわゆるリノベーションの特集だが、チルチンびとらしく、木やディテールへのこだわりが随所に見られる家ばかり4件を事例として紹介している。


  1. 東京都世田谷区・M邸
    思い入れのある家具に合わせてマンションをリノベーション。34平方メートルという小ぢんまりとした空間ながら、壁紙や建具なども自分でデザインしたりチョイスしたりして、お気に入りの住まいとなった。

  2. 三重県尾鷲市・小川邸
    自然素材を生かした製品づくりで知られる小川さんの自邸。古びた民家を譲り受け、無垢材を存分に生かした住まいへと改修した。30畳もの広さがあるウッドデッキの中央には、小さな菜園もついている。

  3. 群馬県高崎市・H邸(設計、寺林省二)
    荒れた庭にHさん自身が少しずつ手を入れてきたが、今度は庭と家が分断されていることに気づき、住まいの改修へと踏み切った。庭のイメージに合わせた外観や、外とのつながりを持った動線、自然に庭へと視線がいく開口など、居心地のいい空間に。

  4. 東京都・柳下邸(設計、加藤武志)
    部屋と部屋、1階と2階が孤立していた家を、子どもたちの成長にともない使いやすい間取りにリノベーション。耐震補強や補修を行うとともに、空間同士をつなげ、子どもたちの笑顔が溢れる、明るく一体感のある住まいへと生まれ変わった。

 2.は製材所を経営していた木の専門家の自邸だけあって、自身で基本設計と内装を計画し、大工とともにつくり上げた住まい。友人の建築士・田中大造さんにデッキデザインを依頼したり、建具を日光のドア工房の小坂憲正さんにお願いしたりと、ネットワークを駆使して、オリジナリティ溢れる住まいになっている。

 また、感心したのは3. H邸の庭造り。以前は竹が生い茂り、物置のようだったという庭を10年近くかけてHさんがかわいらしい庭へと変貌させた。様々な植物を植え、レンガを置き、ウッドデッキのある東屋までもほぼ1人でつくったというから驚きだ。




◇特集続き[直したい家具がある]【★★★☆☆】

 桐の箪笥や漆塗りの机など、チルチンびと読者に愛用者も多いと思われる和家具。昔ながらのデザインや年月を経て出る味わいに愛着が湧く反面、汚れやかけ、不具合が出やすいのも事実だ。今回の特集では、自然素材で修理を行う骨董・時代家具店「灯屋 可ナル舎」に、和家具修理のノウハウと、古いものを取り入れた空間づくりについて聞く。

 可ナル舎は、以前までラッカーやシンナーなども使って修理していたが、無垢材に塗膜をつくり、木の呼吸を止めてしまうことに疑問を感じて、試行錯誤しながらも自然素材のみで家具の修理を行うことに。「50代の人を20代の美しさに戻すのではなく、50代なりの美しさを引き出す」と、古いものゆえの美しさを生かす修理の心得には納得。

 次に、実際の修理の工程を追っていく。まずは、家具の状態をチェック。角や塗装などの美観、機能、木部の状態と、大きく3つに分けてチェックする。次に、使用する材料だが、売り物にならない家具を解体して材料として活用するほか、新しい鉄釘は塩水につけて錆びさせて使用するというのには驚いた。

 さらに、漆塗りの小箪笥と桐の刀箪笥をそれぞれ実際に修理。丁寧な仕事のひとつひとつを写真と解説入りで見せ、桐の刀箪笥などは足をつけ天板にガラス板を敷いて、テレビボードとして生まれ変わらせている。

 このテレビボードのように、本来の用途以外に暮らしに合わせてリメイクした古道具も紹介。火鉢にガラス板を載せてテーブルに、小箪笥を2つ使い、上に無垢板を載せて書斎の机に、など、個性的な家具に仕上がっている。

 また、可ナル舎の商品から、今の暮らしにも合う和家具や古建具のカタログ。全国の家具の修理対応点リストまで載っていて、全27ページ。解説が細かく、基本的な疑問にもQ&A形式で応えているため、和家具が好きな人には参考になる特集。




◇連載[語ってください、あなたの住まい観] 【★★★☆☆】

 どいかや

 自然と生き物の姿を描いた絵本で知られる絵本作家、どいかやさん。都心にも通える自然豊かな場所へ、と房総半島の真ん中に位置する千葉県長生郡に家を建てて、今年で9年になるという。国産材を使いたいことと、予算が少ないことを大工さんに告げると、節のある木などを安く手に入れ、すべて国産の檜や杉で家を建てることができたという。

 国産材にこだわった理由は、外国産の安い木材が使われて日本の森が荒れていることに疑問を持ったこと、将来ゴミになったときに自然に還るようにしたいということからだった。自分以外の生き物や環境のために、シンプルな暮らしをしたいとも語っている。

 庭も、最初は張り切って色々な花を植えていたが、この土地に生えているものを抜いて別のものを植えることに違和感を覚えて、今は自然に生えてくるものを楽しむことにしたそうだ。

 つくる絵本も、同じ題材で書いていても、舞台が住宅街から自然豊かな場所に変わり、その土地で出会った生き物が登場するようになったというどいさん。もともと自然に関心があったとはいえ、住む場所や住まいによって考え方も変わるということを、改めて知った記事だった。




[今号の評者、建築&住宅メディア研究会 殿木真美子]

◇殿木真美子(とのきまみこ)
ライター。雑誌編集者を経て、結婚を機に1998年からフリーに。現在は一男一女の子育てに追われながら、夫とともに編集・制作会社を運営している。独身時代は「旅」がテーマだったが、子供を持ってからはより現実的な教育、住宅分野へ興味が移る。「都心へ移住」が目下の目標。

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