2012年05月18日(金)
[住宅建築]6月号 [住宅建築]
◇特集[家を身に纏う]【★★★★☆】
建物が住まい手を『囲う』というより、『纏う』に近い感覚の住宅7つを題材にした小住宅の特集です。
[あやさやハウス](伊礼智設計室)
東京都世田谷区の新しい分譲地に建つ、夫婦と二人の子供のための住宅です。建物の名称はこの家に住まう子供の名前で、子供たちにとって楽しい家になるようにと願って名づけられました。
この敷地は土地が小さい上、建蔽率から建坪が9坪に限られてしまい、断面を工夫した縦に暮らす生活とならざるを得ません。そのため、階段に小さな小窓を設け、あちこちの居場所と繋がるとともに、上に向かうにつれて明るく拡がりが出てくるよう飽きさせない工夫しています。
室内は壁ではなく家具で仕切り、境界に機能を持たせるようにしています。思わぬ場所が収納になっていたり、小さな部屋になっていたりと、たくさんの居場所ができたという印象で、その最たるものが一畳の読書室と思います。
小さな家の中に小さな空間を盛り込んだことで、身体的な感覚が溢れ『身に纏う』を実現されています。これからの子育てが楽しくなる空間ではないでしょうか。
[白馬の山荘](伊礼智設計室)
長野県の白馬村にあるスキーを楽しむための山荘です。設計する上では一時滞在する機能さえあれば良いので、倉庫のような建物になりかねないのですが、最小限の建築要素を上手く取捨選択し、人が生活する場としてデザインされています。
内部はキッチン、ストーブ、浴室など必要最低限のものを設え、開口部は腰窓にしてペアガラスを入れ充分な断熱もされています。厳しい自然から守るためのシェルターとしての役割を持つ空間といえるでしょう。
様々な要素が削られた中、残ったものをつないでいるのが土間ではないでしょうか。外部と内部の中間領域となるその場所では、準備、片付け、滞在といった生活全般に活用されることがプランから想像でき、見えてくるかのようです。
余計なものをそぎ落とした必要最小限の建築は、生活する者と建物が一体で近しい関係となり、まさに『家を身に纏った』と言えるでしょう。
現代では少子化が進んでいることもあり、最小限のものさえあればよい小住宅への需要が高まっている風潮です。ですが、住まう人が手が伸ばせる範囲は、大きな家も小さな家も変わりません。
住宅は大小に関わらず、考えなければならないことは一緒です。最小限化された小さな家を設計を見ていると、建築家のするべきことが再認識できるのではないでしょうか。小さくても夢のある豊かな空間ができるのが建築家と考えます。
◇特別記事[構造家との楽しい協働]【★★★★☆】
一般的に構造設計は意匠設計に追従することが多いため、柱・梁など構造部材をいかに目立たたずに隠そうかと考えます。ですが、プロジェクト初期から構造との協働で進めていくことで、合理的かつ意匠的にもすぐれた構造体をデザインに取り入れることも可能となります。そうして建てられた実例です。
[道の駅池田温泉](大建met+なわけんジム)
岐阜県にある温泉つきの道の駅です。町営池田温泉に隣接して、地域の農産物等の物販店、レストランを設けています。建物も地産地消のコンセプトのもとに、岐阜県産の木を使用することを求められています。
敷地は道路と駐車場に囲まれた四方からアクセスできる場所です。そのため、ウィンドウショッピングの感覚で寄り道ができる、シンプルかつ開かれた建築となっています。ここではガラスのファサードが外観を特徴づけていますが、それとともに柱であり、柄であり、陳列棚でもある多機能な木造の構造体が印象的になっています。
全体計画においても、大きな屋根と細い柱で構成し、構造と意匠が一体となっています。戸建て形式の店舗を雁行配置させることで生まれた隙間は、地方において失われつつある商店街のような機能を持ち、構造でありショーケースでもあるファサードも相まって、賑わいに一役買っているのではないでしょうか。
[すごろくオフィス](大建met+なわけんジム)
岐阜県若宮町にあるオフィス付き簡易住居です。空洞化が進む地方の中心市街地において設計者が目指したのは「自分の家を持ってくる」という新しい居住スタイルです。それを実現させるために、意匠と構造が早い段階から協働で進められました。
解体と再組立を前提としたフレームワークに中古海運コンテナを収め、コンテナ自体への構造負担はないことで、解体・移築を容易になるという設計です。
また、フレームにおさまるコンテナに50mm程度寸法違いがあってもおさめられる接合や、フレームそのものも離し置きすること、またトップライト部のFRPで精度調整を行なえるようにするなど、自由度の高いディテールを用いています。
この計画はまるで、一時代を築いたメタボリズムのようです。構造の技術的進歩が、現代の生活スタイルを変える日はそう遠くないのかもしれません。
この二つのプロジェクトは構造納まりのディテール決定により、全体構成が決まっています。構造体を隠すのではなく、意匠と構造が協働で設計することで建築とともに生活の質も変わる可能性があるのではないでしょうか。
◇特別記事[倉敷建築工房の仕事2題]【★★★☆☆】
[芝山町の家](倉敷建築工房大角雄三設計室)
場所は千葉県の成田空港の南側に位置する芝山町、ひっきりなしに飛行機が離着陸し、大きな音が聞こえてくる場所です。緑豊かな雑木林に囲まれた場所で、大屋根のかかる大きな農家を古くて新しい農家に生まれ変わらせた再生プロジェクトとなっています。
この家を再生させる前提条件として、防音対策、3世代が一緒に暮らすこと、そしてこの農家を将来にわたって残すことができることに主眼が置かれています。
まず、平面計画においては新たに耐震壁を設け、新しいプランに再構成しなおされています。居間・食堂・茶の間など主となる生活空間においてはトップライトを設け、日の目をみることがなかった小屋裏と黒光りする大きな梁が力強さを見せています。
防音対策は、建具に防音性能を持たせるだけではなく、土間や縁側といった中間領域を外部に接するよう配置することで、空間そのものが緩衝材代わりとなるよう工夫がされています。また、それにより外部との寒暖差も和らげる天然の断熱材ともなっています。
建物は放って置くと朽ちてしまいますので、理想は使いながら建物を維持する動態保存です。プランこそ現代に合わせたものとなりましたが、この地域の景観を壊さなかったことは将来、評価されることではないでしょうか。
[日比の家](倉敷建築工房大角雄三設計室)
建物のある岡山県玉野市は古い港町です。敷地周辺はメーカーの住宅が多いですが、分譲地の最南端にあることから瀬戸内海も一望できる場所です。
5人家族が住むための住宅ですが、建物を一つの大きなボリュームとするのではなく、寝室、客間、居間・食堂と分け、一本の廊下でつながるようにしました。
外観を特徴づけているのはカラー鉄板葺き寄せと、古い大冠振瓦を採用している屋根です。棟によって異なるため、小さな3棟という感覚になり存在感が薄れ、地域に合ったボリュームへと配慮されています。
また、3棟の区切った配置とすることで中庭を作ることができ、各部屋に光や風が充分に行き渡ることに成功し、住まい手に豊かな自然をもたらしています。
少しだけ離すという分棟配置は、平面図では建築家が行なった小さな工夫にすぎません。ですが、この工夫は住まい手にゆとりをもたらし、地域にゆとりをもたらす選択となっているのではないでしょうか。
★この雑誌を購入する[今号の評者 建築&住宅メディア研究会 奈良賢史]
◇奈良賢史(ならのりひと)
本多建築設計事務所所員。日本大学大学院修士課程を修了、一級建築士。趣味は旅行。
「住宅建築」のレビューを担当するに際して、事務所内に「住宅計画研究会」(永田州二、本多和夫、奈良賢史、田村麻衣子、安藤恵吏佳、間沢眞木子)をつくってもらいました。ライターの永田さんや所長のご指導をいただき、田村さん、安藤さん、間沢さんに手伝ってもらう形式で、私・奈良が執筆します。
事務所ではケアホームの工事が順調に進み、並行して障害者施設の改築調査も行いました。現在は集合住宅の計画が進んでいます。
◇建築&住宅メディア研究会
代表/細野透
会員/家成俊勝、大津なほ子、北原さと子、黒崎敏、神徳香子、後藤雅浩、今野靖人、菅原麻衣子、殿木真美子、奈良賢史、萩原詩子、守山久子、脇坂圭一
Posted by 管理者 at 11時30分
2012年05月17日(木)
[モダンリビング]2012年5月号 [モダンリビング]
◆[モダンリビング]2015年3月号・ハースト婦人画報社・定価1800円
◇特集[感動リノベーション!] 【★★★☆☆】
時代の趨勢か、住宅雑誌もリノベーションを特集の大きな柱にするようになってきました。中でもモダンリビングは比較的早くからリノベを取り上げていたように思います。5月号は、リノベをテーマに多彩な記事を用意。実例は以下の7軒です。
山王の住宅
設計:山口誠デザイン
築20年の木造戸建てを全面改装。ディテールにこだわった白いミニマムな内装。
目白隠宅
設計:張 懷文+ブルースタジオ
築24年のマンション最上階260平米を、住居とゲストハウス3室に改装。
Switch Box in House
設計:ナフ・アーキテクト&デザイン 中佐昭夫
車庫付き3階建てを治療院併用住宅に。家の中心にデッキ材のボックスを入れて各階をつなぐ。
Casa Gracim
設計:北村彰朗建築設計
約100平米のマンション角部屋を、木の建具で仕切ってカフェ風に。
町―Building
設計:UID 前田圭介
うなぎの寝床状の3階建てに中庭を新設し、内外をラーチ合板で仕上げた。
御茶ノ水のリノベーション
設計:A+Sa アラキ+ササキアーキテクツ
地下1階地上6階、延床面積250平米の築38年のペンシルビルを、住まいにコンバージョン。
本棚の家
設計:SPEAC,inc.宮部浩幸
約83平米のマンションの一室を本棚でゾーニングし、約6000冊の蔵書を持ち込む。
戸建てもマンションもビルもあり、プランもインテリアも個性豊か。建築家によるリノベーションも、すっかり定着してきたな、と実感します。
◇特集続き[K邸のマンション・リノベーション] 【★★★☆☆】
特集の1本は、建築家・谷尻誠さん率いるサポーズデザインオフィスが手掛けたマンションリノベのドキュメント。ファーストプランをつくったあとに、外せない構造壁の存在が発覚したり、一方では、予想外の階高が判明してロフトが追加されたりと、リノベならではプランの変遷があったようです。記事では、施主への提示に至らなかったものも含め、9つのプラン案を掲載。
そして、プランが決定したあとは、お定まりの見積もり調整。予算の1.7倍にも上った工事費を、いかに減額したかが事細かに書かれています。多少予算オーバーしながらも、なんとか解体にこぎつけたところで、今月号はここまで。以下は次号に続きます。
◇ 特集続き[中古物件を買うために知っておきたいお金のこと] 【★★☆☆☆】
かつてに比べれば、資金面でも税制面でも中古物件が買いやすい環境が整ってきたとはいえ、やはり、デベロッパーが何から何まで面倒を見てくれる新築マンションに比べれば、根気も手間も要ります。特集の最後は、中古購入に関する実用記事6ページ。
物件購入の流れ、物件探しのポイント、資金計画の3項目にまとめられています。世帯年数1000万円・30代夫婦が4000万円の中古マンションを購入した場合のシミュレーションも。
ただ、リノベーションを前提に買うなら、購入代金に加えてリノベ費用をどう工面するかが大きな問題になるはず。そこをもうちょっと踏み込んで解説してほしかいところでした。
[今号の評者、建築&住宅メディア研究会 萩原詩子]
◇萩原詩子(はぎわらうたこ)
文系住宅ライター。就職雑誌を編集するつもりで入った会社で住宅雑誌編集部に。以来十余年、住宅とその周辺の取材を続けている。著書に「住宅リフォームの値段としくみがわかる本」、共著に「住宅購入チェックリスト」(ともに東洋経済新報社)がある。
◇建築&住宅メディア研究会
代表:細野透
会員/家成俊勝、大津なほ子、北原さと子、黒崎敏、神徳香子、後藤雅浩、今野靖人、菅原麻衣子、殿木真美子、奈良賢史、萩原詩子、守山久子、脇坂圭一
Posted by 管理者 at 11時30分
2012年05月16日(水)
[建築知識]5月号 [建築知識]
◇特集[白熱!『木構造』実践講座]【★★★★☆】
自由な意匠を実現するヒントが満載
1月号の「萌える!『建築基準法』」に味をしめたか、再びマンガを取り入れた特集だ。今回のテーマは、木構造の住宅。木構造に関する基礎的な知識と、実例における工夫を紹介する。
内容は大きく2部に分かれている。荷重や応力、変形、耐力壁、接合部、材料について教科書的な内容を解説する「基本編」と、「できるかぎり柱を細くして内部空間を広くしたい!」、「スキップフロアのある住宅を安全につくるには?」など全10事例を通して構造設計者の考え方を伝授する「実践編」だ。
それぞのプロローグと特集末尾のエピローグにマンガがつく。独立したての意匠設計者・沢田仁が初めて木造住宅を設計することになり、高校時代の同級生で構造設計事務所に勤める馬場翔太と彼の事務所の主宰者である若づくりで派手な叔母・森美香に教えを請うという仕立て。解説編も、彼らの会話で話が進んでいく構成になっている。
基本編は、木構造の設計に必要な基礎知識をコンパクトにまとめている。ただ、当然のことながら許容応力度や細長比、断面係数、断面2次半径、応力やたわみの計算式などがバンバン出てくる。いくら会話風の文章で柔らかく表現しても、内容がとっつきにくいことに変わりはないのは致し方ないところか。
一方、解説編は、会話形式であろうとなかろうと構造設計者の考え方を知れる内容自体が面白かった。取り上げる事例は、江尻憲泰、多田脩二、佐藤淳、名和研二など、第一線の構造設計者が手がけたものだ。
前述の例以外にも、一般的に流通している製材で大スパンの梁を設ける、オーバーハング形式を木造でつくるといった具体例で、どのような制約が生じ、どのように解決していくかという道筋を教えてもらえる。
木材の使用部位による反りやねじれの生じやすさ、片持ち梁と跳出し梁の曲げモーメントやたわみの違いなど、事例に即した基本事項の解説も分かりやすい。解説編全体を通して、木構造の基本を踏まえつつ、それを超えて自由な設計が可能だという面白さを提示している。
特別付録として、梁断面の略算法や品確法の壁量計算など、木構造計算に必要な情報をまとめた冊子が入っている。
◇特別企画[楳図かずお的建築論!]【★★★☆☆】
今年の2月号から、建築知識の表紙にマンガの主人公が登場するようになった。ブラック・ジャック、ルパン三世、ゴルゴ13に続く本号は「まことちゃん」。これにちなみ、作者である漫画家、楳図かずお氏に建築論を聞いている。
「日本の建築というと、法律とか利便性に沿っているけど、それだけ、という印象があります」。「ヨーロッパなどで見られる街並みは、1軒1軒が個性的なんだけどまとまりがある」。「(外観で)みんなに対して見える楽しさをつくらないと、社会性がないような気がする」。「理論で考えないと建物として成立しませんので、理論は大事だけど、そこを出発点にすると絶対おもしろいものはできません」などなど。
語っている内容は、ごくまっとうな印象を受ける。ただ、氏の語る意匠の面白さが、あの赤白ストライプの外観につながるのかと思うと…。
◇新連載[実力派設計者のディテール徹底解剖! 部位別詳細図集] 【★★★★☆】
内部床
石井秀樹、根來宏典、村田淳という「気鋭の実力者設計者」が号ごとにテーマを定め、自身のディテールを図解していく連載が始まった。初回は「内部床」を題材に3氏の11事例を紹介する。
4ページの事例は、「段差のつけ方、消し方」、「異素材の取り合い」、「床下空間の利用」という3つの切り口に分けて並べられている。段差のある縁側の見切りにフローリングを用いて素材感をそろえた事例、土間と畳の見切りにSUSのフラットバーを仕込んだ事例、床暖房用の床下スペースを生かして配管・配線を納めた事例など。
それぞれ写真を1点掲げ、1/8から1/30の詳細図に注釈を加える。見栄えに加え、耐久性や施工性に対する配慮点も記載する。コンパクトな誌面構成にした分、写真が小さくなり、ディテールの工夫で得た効果が見えにくいところは少々もったいなかった。
★この雑誌を購入する[今号の評者、建築&住宅メディア研究会 守山久子]
◇守山久子(もりやまひさこ)
住宅・建築ライター。ゼネコン在籍後、バブル期の大量中途採用に紛れて出版社へ転職、2003年からフリーのライターに。著書に「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、「デザインエクセレントな経営者たち」(共著、ダイヤモンド社)など。
◇建築&住宅メディア研究会
代表/細野透
会員/家成俊勝、大津なほ子、北原さと子、黒崎敏、神徳香子、後藤雅浩、今野靖人、菅原麻衣子、殿木真美子、奈良賢史、萩原詩子、守山久子、脇坂圭一
Posted by 管理者 at 11時30分
【 過去の記事へ 】
