2006年12月11日(月)
[建築雑誌]12月号 [建築雑誌]
◇ 特集[中国 ] 【★★★★★】
そこに日本の建築世界はどう関われるか
経済の高度成長に沸き、2008年の北京オリンピック、2010年の上海エクスポ(万博)を控えた中国では、建設ブームが続いている。
日本の建築界として、この中国とどう関わり、いかにして共存共栄の関係を築いていけばいいのか。1本の論文、2本の座談会、8本のインタビューで構成された意欲的な特集だ。
そのうち、次の6本が強く印象に残った。
(1)中国に進出した「アトリエ建築家」の座談会
(2)同じく「組織設計事務所」の座談会
(3)中国のデベロッパーへのインタビュー
(4)中国の設計事務所へのインタビュー
(5)中国の建築系教授へのインタビュー
(6)村松伸・東大生研助教授の論文
建築雑誌の特集としては珍しく、すべての記事が面白かった。その理由は3点。
第1に、座談会の出席者、インタビュー対象者などの人選が的確だったこと。日本人と中国人をバランス良く登場させたのも良かった。
第2に、2つの座談会の司会者が優れていて、テンポ良く話を進めていること。
第3に、通常の特集号とは違って、寄稿方式ではなくインタビュー方式を採用したこと。寄稿方式だと記事が堅く、抽象的になりがちなのだが、インタビュー方式だったので記事が軟らかく、かつ具体的になって親しみやすかった。
一方、違和感を感じたのは村松伸・東大生研助教授の論文が特集の冒頭にあったこと。特集全体の流れをメーンストリームと名付けると、村松さんの論文の内容はどう考えてもサブストリームだ。「起承転結」の原則でいうと、「転」あるいは「結」に置くのが自然の流れだ。それをなぜ特集の冒頭に置いたのだろう。権威主義、学閥主義によるものではないと考えたいのだが…。
さて、1980年末から90年代前半に及んだバブルの時代、建設ラッシュに沸いた日本には海外から多くの建築家が進出してきた。
歴史的に見ると、「明治の“ お雇い外国人建築家”の来訪」、「大正から昭和にかけての“ 米国系大型事務所”の進出」、「第二次大戦前後の“ 作家型建築家”の来訪」に続く、「第4の“ 海外建築家”到来」だった。
今中国で起こっていることは、いわばその「逆バージョン」。今号の特集でその全貌をコンパクトに把握することができる。
◇ 座談会[個々人が認識する日中の建築世界] 【★★★★★】
出席者は北京で活躍する3人の建築家だ。
迫慶一郎氏は、山本理顕設計工場で北京のプロジェクトを担当した後、独立して北京に設計事務所を開設した。東福大輔氏は、磯崎新アトリエ北京事務所に勤務。早野洋介氏は、中国人建築家の馬岩松氏と北京で設計事務所を共同経営する。
日本人ではあるが、それぞれ違った立場にいる建築家たちだ。一方、司会者は慶応大学助教授で、東京と北京に設計事務所を構える松原弘典氏。
4 人の「北京通建築家」による座談会は、最初からエンジン全開。「ボスの存在、現場主義、開かれているマーケット、グローバリゼーションの中で、試合に出場」などをキーワードに、ハイスピードで疾走する。
松原。「今の日本は皆さんにとって戻っていきたいと感じる場所なのでしょうか?」
迫。「今日は若い世代を中心にある種の閉塞感が漂っているのではないかと思います。たとえていうと、日本は埋まっている、という感覚があります」
中国が分かると同時に、日本も見えてくる座談会だった。
◇ インタビュー[中国人が見た日本] 【★★★★☆】
中国人へのインタビュー記事のうち、Zhang Xin氏(デベロッパー)、Wu Jing-Hai氏(設計事務所)、Xu Mao-yan氏・Wabg Yun氏(建築系教授・副教授)の発言のエッセンスを紹介しよう。
Zhang Xin。「日中両国では誇張ではなく収斂を追求するという点が一致しています。(違いを上げると)、日本建築には深さがあり、中国の現代建築には若さがあります」
Wu Jing-Hai。「若い日本人設計者は設計することに対して非常に執着を持っていて、建築家という職業への情熱を強く感じました」
Wabg Yun。「1980年代は中国全体が日本びいきのような時代でした。しかし今は、グローバリズムの影響で文化の地域性が薄らぎ、日本はひとつの選択にすぎなくなりました」
[今号の評者、建築&住宅メディア研究会 細野透]
◇細野透(ほそのとおる)
建築&住宅ジャーナリスト。方向音痴にめげずに、1000作品以上の建築&住宅を現地取材。建築専門誌「日経アーキテクチュア」編集長などを経て、2006年6月から細野透編集事務所代表。著書に「ありえない家」(日本経済新聞社)、「耐震偽装」(日本経済新聞社)など。
◇建築&住宅メディア研究会
代表:細野透
会員:今井早智、岡部明子、神谷徹、高橋靖一郎、萩原詩子、平塚桂、守山久子
Posted by 管理者 at 11時30分
