建築雑誌オールレビュー

代表/細野透
会員/家成俊勝、大津なほ子、北嶋祥浩、北原さと子、黒崎敏、神徳香子、今野靖人、殿木真美子、
   萩原詩子、平塚桂、守山久子、吉川彰布、脇坂圭一

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2010年07月26日(月)

[住宅建築]8月号 [住宅建築]

[住宅建築]8月号・建築思潮研究所・2450円


◇特集[永田昌民 営みの輪郭] 【★★★★☆】

 隔月刊としてのリニューアル第1号となった今月号。雑誌の8割近くを占める特集に取り上げられたのは、長年、全国に多くの住宅を手掛けてきた建築家、永田昌民氏(N設計室)である。

 永田氏へのインタビューにはじまり、近作8題の紹介および「N設計室詳細図集」が続き、最後に「仕事リスト」で締める。

 インタビューのタイトルは「住まいという風景を探して」。幼少時代に田舎で過ごした思い出、東京芸大時代に吉村順三氏の自邸を訪れた経験などから、「設計者として住まいの原風景を捉えた」とする。

 「人為的につくられた創作物である建物が、いかに植物と関わり、ひとつの風景をつくるかを常に考えている」。「そうした風景や家とともにある記憶を、設計を通して残していきたい」。

 近作8題は2006年から2009年の間に竣工した作品である。

 「クィーンズメドゥ・カントリーハウス」
 「出雲の家」
 「安雲野の家」
 「あきる野の家」
 「秋津の家」
 「葉山の家」
 「南アルプス市の家」
 「仙台の家」

 そして「N設計室詳細図集」では、まず図面を描くことについて、永田氏独自の考え方からはじまり、木製にこだわる建具から、ソーラー屋根や、空気式床暖房などの環境設備までの詳細図が続く。

 「仕事リスト」を見ると、北は新潟、南は島根県と、全国幅広く「いえ」を手掛けていることがわかる。永田氏は「まだ手がけていない県があるので全国制覇をしたい」と、意欲を見せる。

 今回の特集では、2006年からの作品が取り上げられた。なお、同誌1988年11月号には「N設計室の近作7題」と題して、当時の作品が取り上げられていることを付記したい。




◇特別記事[39年の時を経た名建築に住む 宮崎台ビレッジ]【★★★☆☆】

 東急田園都市線の沿線に、建築家の内井昭蔵氏(故人)が手がけた、一連の集合住宅が点在する。桜台ビレジ(1969年、横浜市青葉区)、桜台コートビレッジ(1969年、横浜市青葉区)、宮崎台ビレジ(1971年、川崎市宮前区)である。

 3作のうち、桜台コートビレッジは、昭和45年度日本建築学会賞を受賞して、内井氏の力量を知らしめた名作である。

 この記事は、宮崎台ビレジをテーマに、宮崎台ビレジBタイプ住戸の改修、内井乃生氏(内井昭蔵氏夫人)へのインタビューで構成する。

 内井乃生氏は、桜台コートビレジと比較しつつ、「宮崎台ビレジの方が、建築家としての姿勢に溢れていて 、“内井らしい”」とする。

 他に、宮崎台ビレジを設計した当時の建築界の動向、設計作業の中で行なわれていた議論、内井昭蔵氏のディテールに対するこだわりなど、裏話が満載である。




◇欧羅巴建築見聞記[AEGタービン工場] 【★★☆☆☆】

 今回は、1909年にピーター・ベーレンスにより設計された、ベルリンの「AEGタービン工場」である。宮本和義氏によるレトロなカラー写真と白黒写真が、当時の雰囲気を出していて、どこか懐かしさを感じさせる。

 建築家、栗田仁氏による「歴史主義の衣を纏うプレ・モダン」と題された、見学記が添えられる。

 百年以上経ったこの工場が、未だ現役だというから驚く。近代に誕生した「工場」というアーキタイプ。日本国内には、近代文明を支えた工場は、どれくらい残っているのだろう。





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[今号の評者、建築&住宅メディア研究会 吉川 彰布]

◇吉川 彰布(よしかわ あきのぶ)
現在、東北大学博士課程後期(建築学専攻)に在籍。「建築における自然摸倣の歴史」を主テーマに、研究活動を行なっている。米国、ニューヨークにあるプラット・インティテュート大学の建築学部を卒業後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校にて修士課程を修了。その後、ロサンゼルスの設計事務所Nakada+Associatesに3年間勤務し、2009年末に帰国した。

◇建築&住宅メディア研究会
代表/細野透
会員/家成俊勝、大津なほ子、北嶋祥浩、北原さと子、黒崎敏、神徳香子、今野靖人、殿木真美子、萩原詩子、平塚桂、守山久子、吉川彰布、脇坂圭一


Posted by 管理者 at 11時30分

2010年06月21日(月)

[住宅建築 ]5・6月号 [住宅建築]

[住宅建築]5月号・6月号 建築思潮研究所・定価2450円


◇ 特集 建具の愉しみ 【★★★★☆】

 雑誌の半分近くを使ってまとめられた特集は、建具の魅力であふれている。建具は日本の伝統的家屋では重要な要素である。「歴史が積み重ねた伝統の奥深さを再発見したい」とする編集者の意図が見え隠れする。

 実例は三題。
 「東玉」(泉幸甫建築研究所)
 「守山の家」(谷尻誠/Suppose Design Office)
 「真法院町の家」(三澤文子/Ms建築設計事務所)

 「東玉」は、建具は建築設計者にとって力の見せ所であると話す泉幸甫氏の作品。伝統に基づいた「泉印」とでもいうべき、建具のデザインをふんだんに盛り込むことで、独自性を築きあげている。

 「守山の家」では、荒々しい石と植物によって演出された外部を囲うように室内空間が存在する。内と外の境界の存在を消すことで連続性をつくりだし、また、白い壁に浮き出す木製の建具は絵画のフレームのように存在し、独特な空間演出をしている。

 「わたしの建具」には、赤坂真一郎、八島正年+八島夕子、吉本剛、田中敏溥氏のコラムが並ぶ。門外不出となりがちな建具のディテールを、豊富な図面とスケッチ、および設計者の建具に込めた想いを伝える文章で描く。

 田中厚子氏の「ノイトラ自邸のガラス引戸──日本に学んだ内と外との関係」と題する論文はとても興味深い。

 田中氏は、「60年代以前のアメリカでは、引戸が住宅の内外を区切る境界として使われることは無かった。しかし、ノイトラの自邸は大型の引戸と鉄のパネルでつくられた。これは、土浦亀城、シンドラー、ノイトラが、F.L.ライトのタリアセンで出会い交友を深めたことがきっかけではないか」と推測している。




◇ 第12回欧羅巴建築見聞録 シュレーダー邸
  (文 栗田仁)【★★★★☆】


 リートフェルトが設計したアムステルダムのシュレーダー邸を、栗田仁氏は、「消える壁」と「引戸系建具」によるカラクリ屋敷と言う。

 昼間は壁と建具を開くことによりワンルームとして、夜間は閉じることにより3寝室、居間・食堂、ホール、浴室に分割してプライバシーを確保する。紙面では色鉛筆による断面パースや、豊富な写真を使って、その「カラクリ」をわかりやすく伝える。

 モンドリアンの作品の「起こし絵」との比喩を交えながら、シュレーダー邸の歴史的背景や魅力をユニークな文章で表現している。




◇ 特集 北の大地に住まう 環境に寄り添う住宅を求めて【★★★☆☆】

 圓山彬雄氏は「進化する北海道の住まい」と題する論文で、北海道の住宅の歴史はすっかり日本を離れてしまったと述べている。

 住宅に断熱や気密等の考えの無かった時代に、北海道では「りんご蔵」や「たまねぎ蔵」にレンガ二重壁の間にもみ殻を入れた断熱や地熱利用など、工夫がなされていた。

 氏は「そういう新しいものに飛びつく進取の気取り気質が北海道にはあり、新しい技術や素材をどんどん取り入れ、快適性を手に入れてきた」とする。

 そして、「現在、快適性を求めてきた過程で切り捨てられたアイヌの伝統的民家である『チセ』(土間床・雪断熱等)のような、より原始的な素直な暮らし方を探している」と結ぶ。

 今回登場した主な作品は、そんな自然に寄り添う工夫がなされた五題である。

 「向陽台コート」(小室雅伸/北海道建築工房)
 「アツベツの森の家」(小倉寛征/Sa design office)
 「雁木のある家」(照井康穂/照井康穂建築設計事務所)
 「青葉町の家」(遠藤謙一良/遠藤建築アトリエ)
 「コートハウス」(小西彦仁/ヒコ コニシ設計事務所)
 「円山西町の住宅」(羽柴功一/ATELIER G7)

 「向陽台コート」と「雁木のある家」では屋根のあるテラス、「円山西町の住宅」と「青葉町の家」では、レベル差や大きな開口部を利用して積極的に外部との関係性を求めている。住宅性能としての快適性を求めた設計から、一歩踏み出した住宅が目を惹く。

 惜しむらくは、撮影者の意図と紙面を構成するデザイナーの意図の不一致(?)が見られることだ。写真の限界を超えての大伸ばしによるボケとノイズが目立つ写真がいくつかあるため、雑誌にいささか陳腐な印象を与えている。





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[今号の評者、建築&住宅メディア研究会 北嶋祥浩]

◇北嶋祥浩(きたじまよしひろ)
建築家。内井昭蔵建築設計事務所勤務後、アビエルタ建築・都市を主宰。大学の非常勤講師も勤める。外国の片田舎をドライブするのが趣味。

◇建築&住宅メディア研究会
代表/細野透
会員/家成俊勝、大津なほ子、北嶋祥浩、北原さと子、黒崎敏、神徳香子、今野靖人、殿木真美子、萩原詩子、平塚桂、守山久子、吉川彰布、脇坂圭一


Posted by 管理者 at 11時30分

2010年04月06日(火)

[住宅建築]4月号 [住宅建築]

[住宅建築]4月号・建築資料研究社・定価2450円


◇特集[和の視座 木原千利設計工房 日々の窓]【★★★★☆】

 『住宅建築』が、隔月刊に変わるそうです。6月19日発売の8月号より、偶数月発売になるようですが、来月は5・6月合併号という事で、実質的に次号から隔月となります。

 1975年に、「設計者と施工者、そして建主の三者を繋ぐ」という方針とともに創刊し、現在も独自の存在感をもつ住宅建築ですが、その方針は変えず、より充実した内容を提供していくとの事です。建築と建築雑誌は常に呼応し合うため存在すべきもの、今後も注目します。

 特集は、木原千利設計工房。近作4題の紹介とともに、内と外をつなぐ「窓」に注目しています。障子や襖、板戸など、日本が培ってきた開口意匠を根底に据えながら、「日々眺める窓を、もっと自由に美しくつくる」。そんな日本人の感性に訴えかける空間表現に相応しい、木原さんの「窓の作法」を詳細図とともに紹介しています。

 近作4題はこちら。

「柊木の家」…中庭を隔てた和室と住まい

「櫂の家」…野点のような感覚を伴う開口部の設え

「風游の家」…眉山の風が吹き抜ける

「片流れの家」…12Mの梁が架け渡された眺望を導く大屋根

 木原さんの住宅は、独特の美しく新しい和室の開口にハッとする事が多々あります。導入部では、以前に掲載された住宅を含め、窓ばかりの14カットを8頁にわたり掲載しています。乳白フィルム入り合わせガラスと障子による壁面や、障子を開け放つと外部と一体化する床の間など、自由自在な幽玄の世界が展開します。

 開口意匠の決め方については、「柊木の家」、「櫂の家」を例にとって説明がされています。周囲の環境と外の状況に応じて、開口の配置、形、材料、デティールの決め方が大きく変わるそうです。必要な場所に必要な開口が出来ていることで、一見主張が強く見える部分があっても、バランスがあり淘汰されているように思えます。

 「櫂の家」は、外部に人の視線を気にしない自然環境があることで、幅広の障子を開け放つと自然のみが見えるように、枠などの建築意匠を出来るだけ隠す納まりにしています。しかし障子が閉まるとまたそれがいいのです。今度は障子が室の主役となり柔らかく光って、障子越しに木漏れ日が揺れて見えます。開いている時だけでなく塞がっている時の開口の在り方を再認識させられます。

また、フローリングでテーブルと椅子を置くようなリビングにおいては、透明のガラス戸を介して室内からデッキへ続く繋がりが、ごく自然で清々しい内外環境になっています。今回の数々の窓空間について考える時、木原さんの建築での第一の師、森忠一氏がフランスの車シトロエンについて語ったという台詞、「機能的でエレガント」。この言葉がピンとはまりました。




◇特集記事[京都・伝統技をとらえる現代の眼]【★★★☆☆】

 京都の棟梁・安井清さんの現在進行中の仕事に加え、京都ならではの伝統の技を持つ職能を3カ所巡ります。

 それぞれの職能紹介では、作業の工程、技術などが細かく紹介されています。古い建物の劣化した木部を樹脂で接ぎ、土壁の剥がれも樹脂で止めるなど、意外にも現代技術を屈指した保存修復をする「さわの道玄」。次に襖などに使われる京からかみの型押しをする「丸二」。最後には、他ではできないカーブの技術をもつ照明をつくる「和田卯」が登場します。

 安井さんの仕事は、数寄家造りの増改築「宇多野の家」と、「堺の家」(工事途中)が紹介されています。数寄家というと、古いものと構えてしまう所もありそうですが、安井さんの念頭にあるテーマは、これまた意外にもセセッシオンの堀口捨己、藤井厚二各氏の理念を現代につなげることのようです。先人の知恵を近代的にして、過去と自分たちの時代を繋げる努力の中で新しい空間を見出す事を考えています。

 「和田卯」の、和紙と杉の桟で出来たぼんぼり型ペンダント照明は、今や昔ながらの、というイメージもありますが、電気ができた時代にぼんぼりを応用して和空間に合う吊り下げ型の照明が考えられて、カーブの技術もそこで新しくなった過程があるようです。

 根っからの京都の方と接すると、受け継がれて来た知恵に新しいものをさりげなくうまく取込む、共通の粋なセンスと合理性に驚く事も多いです。文化や歴史の「過程」が人自身に沁みこんでいるなあ、と感じつつある昨今です。




◇特別記事[大谷・石切り場としての歴史]【★★★★☆】

 大谷石で有名な、石の町「大谷」には、巨大な地下の採掘空間が残る石切り場があります。地元栃木県出身の建築家、中山繁信さんの解説で、手掘りの時代の職人の生活や機械掘りに至る現在まで、綴られていきます。

 山の側面を横から掘り進み、そこから下へどんどん掘り下げてできた石切り場空間は、そこに空間を創造しようとする作為性は見当たらないにもかかわらず、静かな古代遺跡のような壮大な姿をしていて、思わず心を動かされる魅力があります。

 ただこの残滓空間自身は、採掘のために出来たネガティブな「ネガ空間」と表現があります。繰り返す事のできる農業と違い、石などを産出する鉱業は、再生産することができない宿命があります。F・ライトの帝国ホテルのために、山を丸ごと買い上げたという石山跡は現在廃坑となり、他の石山の木っ端の捨て場となって、景観も環境も悪化している現状にもふれています。

 そのポジの部分はどこにあるのか。HP上の調べではありますが、大谷資料館では石切り場跡を、コンサートなどのイベント場として活用しているようです。また私もかつて栃木県を車で移動した道沿いに、大谷石が積まれた民家の蔵や塀を多々見ました。その地域の産物が、街並みとなり生きているように感じました。農林業や鉱業のように、再生、ネガ、ポジをふまえた時、建築業はどういうものであるのか、考えさせられます。





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[今号の評者、建築&住宅メディア研究会 北原さと子]
◇北原さと子(きたはら さとこ)
 建築設計家。京都の外れで育ち、大学で勉強した後、山本良介アトリエで「京都建築道」を修行。京都の良さを身に染みて感じるようになりました。2005年に北原さと子建築設計室を設立。現場1000回。とにかく通う!が私流です。
                                                           
◇建築&住宅メディア研究会
代表/細野透
会員/家成俊勝、大津なほ子、岡部明子、北嶋祥浩、北原さと子、黒崎敏、神徳香子、今野靖人、殿木真美子、萩原詩子、平塚桂、守山久子

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