2008年08月29日(金)
[新建築]8月号 [新建築]
◇ 特集作品[新築17集合住宅]【★★★★☆】
東京の住宅地に建つ6戸のコーポラティブ(北山恒)のような低層で小規模なものから、市川駅前の超高層マンション(インテリア;アトリエ・ワン、佐々木龍郎)まで、17の新築集合住宅が掲載されている。
定番となった集合住宅特集だが、今回の特色は敷地・環境・都市との関わりを切り口にしたところ。
表紙を飾る作品は、藤村龍至設計の「BUILDING K」。
駅にほど近い建て詰まった商店街の一角、1階に店舗、2〜6階に計25戸の広めのワンルームが入る。
藤村氏は独自メディアのRound About Journalや10+1などで活躍する論客でもある。本作品の背後にあるデザイン思想はその世界では周知で、若手建築家や学生ブログではよく話題にのぼる。
全面店舗の1階は、構造と設備を集約したことにより、ワンルームマンションの下にしては、邪魔な柱がない。
駅に近接する商店街にマーケットが求める店舗+ワンルームマンションをきちんとつくりながら、「加速する資本の動きからくる制約を建築の可能性に読み替えること」に真っ直ぐ挑んでいる。
周辺を含めた写真を見ると、どの建物が作品なのか一見わからない。
ということは、「雑多な周辺環境にいかに馴染ませるか」という問題設定には正解を出したことになろうか。
表紙写真を眺めていたら
「まじめなひとが まじめにあるいてゆく かなしい」(谷川俊太郎『まじめな顔つき』)
という一節が頭に浮かんだ。
◇ 特集論文+3作品[都市のコンバージョン]【★★★★★】
集合住宅特集の第2部には、馬場正尊論文「都市のコンバージョン」に続きリノベ集合住宅3作品が登場する。
R不動産を立ち上げて話題をさらった馬場氏は特集論文で、「ビルや時にはマンションの一室の改装でしかないコンバージョン」は「今後起こる無数の数限りない変化の微分」だという。困難なコンバージョンをいくつも手掛けてきた馬場氏の発言だからこそ説得力がある。
論文に続き以下3作品を紹介している;
大久保駅前の高層シティホテルを、共同住宅を含む複合施設に(日建設計)
郊外社宅から「引き算」して賃貸マンションに(長坂常)
都心東京電力社宅をオール電化賃貸マンションに(ナフ・アーキテクト&デザイン)
脱「ビルディングタイプ特集」に挑む『新建築』編集部の真意がここにうかがえる。
◇ 特集記事[晴海高層アパートに託された都市高層住宅の夢]【★★★★☆】
10階建ての晴海高層アパートは、1958年に竣工した日本における高層住宅のさきがけで、1997年に解体された。
建築評論家の植田実氏がこの歴史的集合住宅について書いている。
当時の『新建築』をひっくり返すと、設計者の前川國男が一文を寄せているという;
「(近代建築に対する)誤解にもとづく議論の空転が逆に乏しきを分かつ九千万人の人間の生活手段のひとつに役立っているかもしれない。ずいぶんシンドイ話である。」
晴海をル・コルビュジエのユニテ・ダビタシオンと比較したのちに
植田氏は「晴海という試行は歴史の通過点である以上に、そこに見られた夢の凝固によってすでに最終地点に建っている建築だった。その理由によってこそ晴海は消されるべきではなかった」と締めくくっている。
晴海に託された夢は、本号の特集作品を見ても、今日の高層居住にあまり体現しているとは思えない。だから晴海は壊されてしまったのだろうか。それとも壊してしまったから、夢は永遠に葬り去られてしまったのだろうか。
せめて本稿を読んで考えてみたい。
★この雑誌を購入する[今号の評者、建築&住宅メディア研究会 岡部明子]
◇岡部明子(おかべあきこ)
建築家、千葉大学准教授。スペイン、バルセロナに10年暮らすうちに、関心が建築単体から都市や地域へとシフト。現在は、EUレベルの環境・地域・空間政策を中心に調査研究。合わせて、脱近代思想の公共空間論を模索中。著書に「ユーロアーキテクツ」「サステイナブルシティ」(学芸出版社)、「持続可能な都市」(共著、岩波書店)ほか。
◇建築&住宅メディア研究会
代表:細野透
会員:今井早智、岡部明子、今野靖人、殿木真美子、萩原詩子、平塚桂、守山久子
Posted by 管理者 at 11時30分
2008年08月28日(木)
[新建築住宅特集]9月号 [新建築 住宅特集]
◇特集〔家族の距離〕【★★★★☆】
「家族同士の距離」に焦点を当てて設計された住宅を、次の8つのケーススタディで紹介。設計者自らが建築の意図を解説する。
「乗鞍の家」(竹原義二・無有建築工房/愛知県名古屋市)
「農の舎」(五十嵐淳建築設計/北海道常呂郡)
「高井戸の家Abel」(谷内田章夫・ワークショップ/東京都杉並区)
「アトリウムハウス」(中村勝己建築設計事務所/広島市中区)
「タガイ/チガイ」(山岸綾・サイクルアーキテクツ/埼玉県ふじみ野市)
「格子の家」(富永哲史建築設計室/東京都世田谷区)
「OUCHI」(石川淳建築設計事務所/東京都府中市)
「変形地・OFFSET」(奥村和幸建築設計室/東京都国分寺市)
事例の多くは2世帯または3世帯住宅。いずれもライフスタイルを異にする一人ひとりのプライバシーをどう分かつかより、いかに家族同士を結び付ける場とするかに建築家が腐心している様子がうかがえる。
山岸綾氏が設計した「タガイ/チガイ」では、住宅内に用途や使用者を限定しない「空き地」めいた空間がいくつも置かれている。
「(携帯電話やポータブルゲーム機など他者と切れるための)さまざまなツールがあふれた現代社会において、人と人をその内側に抱える建築という装置がなんとか意味を保ちうる手段であり、建築の課題であると考えている」という山岸氏の言葉が、現代建築の様相を端的にとらえていて印象的だ。
◇連載〔住宅力がついてきた コンクリート躯体の木質空間〕【★★★☆☆】
神奈川県の築38年の鉄筋コンクリート造2階建て住宅のリフォーム事例を紹介(設計=上野英二/オークヴィレッジ木造建築研究所)。
改築は、補強を施したコンクリート躯体を木材で覆うようにして外観の雰囲気を一変させるとともに、家族が集う居間を畳敷きにして掘り炬燵を据えるなど、近代建築と伝統的な日本建築の要素を融合させる結果となった。
設計者によれば、そうした改築が可能なのは、躯体が4本の柱だけで建つ極めてシンプルな構造だったことによる。そしてそれは、柱と梁で構成される日本家屋と共通するものだと指摘。
工事中の内外装が取り払われた写真が掲載されており、それを見るとたしかに躯体は柱と床だけで構成されているのがわかる。設計者はこの構造はル・コルビュジエの「ドミノシステム」を彷彿させると述べ、「ドミノシステム」の特徴もまた伝統的な日本の家の造りに近いという。
日本家屋のよさはまず、木、草、土、紙など身近な自然素材を使って造られる点にあると考えられがちだが、将来の増改築に柔軟に対応できる躯体構造のシンプルさにも着目すべしとの主張が意外に新鮮な響きを伴った。
◇作品〔A-house 設計=福山博之/東京都世田谷区〕【★★★☆☆】
作品紹介の冒頭に置かれたこの住宅の異様な姿には誰もが目をとめずにおられないだろう。
交差点脇に建てられたオブジェにしか見えない建物の外観は三角形と台形を組み合わせた多面体。しかも各面がダークグレー、シルバー、アイボリーのアルミ発泡樹脂複合板で、曇り空のもと鈍い輝きを放っている。
「建築的分節を廃し、抽象化されたヴォリュームに還元したい」と設計者。
延床面積は約107平米で、2階にLDK、1階に2つの寝室と、内部は簡素な構成。内壁は白地に花柄の壁紙を貼るなどして、光の移動につれて肌理が微妙に変化するそうだ。「ラスティックな軸組や配管の露出などにより、外部と不連続な親密さを断片的に操作した」とも。
何物かからの逸脱を図ったといった記述も見られ、作品としては実に興味深いのだが、住み手の居心地が気になってしかたがない。
★この雑誌を購入する[今号の評者、建築&住宅メディア研究会 今野靖人]
◇今野靖人(こんのやすひと)
フリーランスライター。各種広告コピーから旅行ガイドブック、新作落語の脚本までジャンルを問わず執筆。
◇建築&住宅メディア研究会
代表:細野透
会員:今井早智、岡部明子、今野靖人、殿木真美子、萩原詩子、平塚桂、守山久子
Posted by 管理者 at 11時30分
2008年08月27日(水)
[建築ジャーナル]8月号 [建築ジャーナル]
◇特集[設計事務所の独立指南] 【★★★☆☆】
「建築業界を取り巻く環境がますます混迷する今、設計事務所を設立するのは至難の業だ」。そんな状況の下、独立して「建築主から信頼される設計者であること」と「経営者としての立場」の両立を目指す人にエールを送る特集だ。
記事は大きく5つのパートに分かれている。
ゼネコンから独立して設計事務所を開いた筑波幸一郎氏による「設計事務所の独立ノウハウ」。
体験インタビュー。実務経験のないまま25歳で仲間と設計事務所を設立した竹山聖氏、伊東豊雄建築設計事務所を経て中国で独立した松原弘典氏、京都市内にある150世帯の小さな集落で活動する森田一弥氏など5組が登場する。
続いて、組織に残る、あるいは独立して組織と協力するという道を選んだ2人の設計者の話。管理建築士制度に関する、国交省への10の質問コーナー。最後に、伊東豊雄氏と青木茂氏が独立を目指す人たちを激励する。
「建築をやっている人は自分が高いところにいるように思いがち」と伊東氏。「『俺は(人と)違うんだ』という意識を持つと、仕事はなくなる」と青木氏。はからずも、普通の目線をもつことの大切さを説いているところが一致した。
◇ジャーナル実務セミナー[火のない暮らしなんて] 【★★★☆☆】
一歩間違えると火傷や火事の恐れはあるけれど、きちんと使えばとても便利で重要な役割を果たす“火”。日常生活や被災生活など、さまざまな場で火を活用した事例を集め、火のある暮らしの大切さを訴える。
前半は「食篇」。生徒と父母が毎日の昼食を作る自由学園の取り組みのほか、親子によるクッキングセラピーを提唱する吉原ひろこさん、玄米菜食を基本としたマクロビオティックを勧める中美恵さんの活動を紹介している。
後半は「防災篇」。新潟県中越地震と阪神大震災で避難所を体験した2人が、非常時の生活において火がどのように活躍したかを振り返る。
記事冒頭には、「(オール電化による)火のない暮らしは、果たして『安全、便利、環境に良し』なのでしょうか」という一言があった。まず“アンチ・オール電化”を掲げてから本題に入るのは、いかにも建築ジャーナルらしい。
ともあれ、使い方によっては危険な火や刃物などを、きちんと使いこなせるようにしておくことはとても重要だ。毎日、自分たちの昼食を自分たちでつくり続けているという自由学園の教育は、さすが素晴らしい。
◇連載[建築をあるく/富弘美術館] 【★★★★☆】
生かしきれていない特殊な構造と構成の魅力
aat+ヨコミゾマコト建築設計事務所による「富弘美術館」を、上野タケシ氏が訪ね歩いた。円筒状の鉄板をつなぎあわせて外形を正方形に切り取った建物が、コンペ以降いろいろな話題を呼んできたのは記憶に新しい。
上野氏は、円形の展示室が予想以上に見やすく、人の流れも円滑にいっていることを評価する。一方で、円と円の隙間に当たる外部空間を意識できる場所が少ないことを残念がる。特殊構造による薄い天井を含め、コンセプトを生かしきれていないのではないか、というわけだ。
もともと円と円をつなぎあわせた空間は、体験してみないと分からない部分も多いのだろう。自分だったらどのように感じるのか、興味をそそられる指摘だった。
[今号の評者、建築&住宅メディア研究会 守山久子]
◇守山久子(もりやまひさこ)
住宅・建築ライター。ゼネコン在籍後、バブル期の大量中途採用に紛れて出版社へ転職、2003年からフリーのライターに。著書に「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、「デザインエクセレントな経営者たち」(共著、ダイヤモンド社)など。
◇建築&住宅メディア研究会
代表:細野透
会員/今井早智、岡部明子、今野靖人、殿木真美子、萩原詩子、平塚桂、守山久子
Posted by 管理者 at 11時30分
【 過去の記事へ 】
