建築雑誌オールレビュー

代表/細野透
会員/家成俊勝、大津なほ子、岡部明子、北嶋祥浩、北原さと子、黒崎敏、神徳香子、今野靖人、
   殿木真美子、萩原詩子、平塚桂、守山久子

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2009年11月04日(水)

[庭]190号 [庭]

[庭]190号・建築資料研究社・2940円


◇連載〔日本の庭 巡礼 京都北村美術館 四君子苑の庭〈下〉〕【★★★★☆】

 前号に続き、京都市上京区の「北村美術館四君子苑庭園」を紹介。今回は園内に点在する石燈籠や石塔、水鉢などをクローズアップし、作庭した佐野越守の弟子である石造工芸士の西村金造氏がその一つひとつを仔細に解説する。

 全部で46にもおよぶ石造美術品の多くは、鎌倉時代の作。中には平安時代のものとおぼしき品もあり、表門近くの滋賀県南郷石を使った「三重の塔」は、塔身の長さに独特の特徴が見られ、高麗からの帰化人の手によるものではないかと西村氏は推測する。希少な石造美術品の数々の収集にかけた北村謹次郎の熱情もさることながら、これだけ膨大な作品を庭のしかるべき場所に配しながら空間を造形した佐野越守の手腕にはただ目をみはらされるばかりだ。

 対談「優美な庭の世界を守る」では、42年間にわたって四君子苑の庭を守ってきた池田忍氏と西村氏が、庭園、北村謹次郎、佐野越守について語り合う。この庭にもともとあったのは何本かのムクノキ、エノキ、クヌギだけで、佐野越守は作庭にあたってまず庭じゅうに木を植えられるだけ植えてから、間引いていくことでたたずまいを整えていったのだという。

 広間の軒内に敷き詰められた真黒石(まぐろいし)は、どの石よりも黒いからと賀茂川から採取したものだそうである。色にムラがなく、大きさも揃った敷石は工芸品的な美しさを見せるが、こちらも実際に敷いた何倍もの量の石を採ってきて、そこから選び抜いた石だけを使うという「引き算の造作」がなされている。

 北村謹次郎は、茶事があれば2か月も前から朝晩の打ち水を欠かさなかったという。杉苔ではなく、自然に生える苔が好きだったからだそうだが、そうしたエピソードの数々によって、彼が「稀代の数寄者」と呼ばれたゆえんが浮き彫りにされる。




◇特集〔雑木を植え、楽しむ〕【★★★★☆】

 かつては見向きもされなかった雑木は、里山が失われて自然林が減少するようになってから珍重されるようになり、庭に採り入れようとする人が増えてきた。だが、自然林の育て方は非常に難しく、家と調和させることも容易ではない。せっかく植えても落ち葉掃除が大変だからと、簡単に切ってしまう例も多いようだ。

 この特集では、雑木をいち早く採り入れて既成の庭から脱し、「小島流」と呼ばれる様式を作った京都の名庭匠・小島佐一の門下生で、44年前から自邸に雑木を大切に育ててきた寺下弘氏(近江庭園代表)の庭を訪問。季節感あふれる雑木の魅力と、その手入れのヒントを探る。

 グラビアを見て驚かされるのは、軒先のコナラの幹が、40年以上前に植えられたとは信じ難い細さを保ち、樹高も低く抑えられていること。インタビューに答えて、寺下氏は言う。
「見さかいもなく、ただ枝を短く切り詰めるような強剪定は、子供の躾でいえば虐待に繋がります。元気のない者を叱っても仕方ありません。それよりも逆に励ますでしょう。木だって同じです」。

 人間の教育と同様、愛情を注ぎながら「こう育って欲しい」という理念に基づいて手入れをしなければ、木は思うように生育しないと寺下氏は主張する。また、あらゆる角度やシチュエーションを考慮し、障子に映る夜の枝の影の様子まで考えて植え、剪定しなければならないとも。

 雑木の庭の素晴らしさを実感させられるとともに、寺下氏のその厳しい姿勢に、素人が生半可な気持ちで雑木を植えたのでは、やはり手を余すのだろうなとも改めて思わせられた。




◇連載〔現代の庭を創る 作庭家 河西 力 人間の可能性〕【★★★☆☆】

 モダンアートのように直線と曲線を巧みに組み合わせる造作をすることで、若手作庭家から圧倒的な支持を受ける河西力氏の、代表的な次の3作を紹介。

 ●世界救世教 平安郷研修センター(京都府京都市)
 ●花崎邸(静岡県富士市)
 ●小林邸(静岡県伊東市)

 世界救世教平安郷研修センターのエトランスとそれに続く前庭の、立面の石積から平面の石張へと連続する意匠は、まさに河西氏特有の技法。各施設は水景で結ばれ、建物の直線と浅い流れが描く緩やかな曲線の印象的なコントラストもまた、河西イズムの真骨頂である。

 芝生の鮮やかな緑の中をさらさらと水の流れる、静岡県伊東市の小林邸の庭は、河西氏の最新作。浅い水底にはところどころにカラフルなタイルが配され、流れに沿って植えられたシダレウメやシダレザクラと色彩を呼応させるなど、ディテールにも細やかな工夫が凝らされている。

 河西氏は自作解説で、時代に合わせて庭を創るのではなく、自己の作庭思想を諸々の条件のもとで最大限表現すれば、おのずと新しいものを創ることにつながると述べる。また、時間の経過は庭を古くするのではなく、例えば延段の目地が鮮苔に覆われればむしろその新しい命に目を向けるべきだと、独自の作庭観、自然観を披歴している。




[今号の評者、建築&住宅メディア研究会 今野靖人]

◇今野靖人(こんのやすひと)
フリーランスライター。各種広告コピーから旅行ガイドブック、落語の脚本までジャンルを問わず執筆。

◇建築&住宅メディア研究会
代表/細野透
会員/家成俊勝、大津なほ子、岡部朋子、北嶋祥浩、北原さと子、黒崎敏、神徳香子、今野靖人、殿木真美子、萩原詩子、平塚桂、守山久子


Posted by 管理者 at 11時30分

2009年11月02日(月)

[建築知識]11月号 [建築知識]

[建築知識]11月号・エクスナレッジ・特別定価1995円


◇特集[一生訴えられない『地盤・基礎』トラブル回避術]【★★★★★】
 保険・保証はどこまで付ければ安心か?


 地盤と基礎。重要であるにもかかわらず、ややもすると実務者からスルーされがちなテーマを扱っている。「保険・紛争編」、「地盤知識編」、「調査編」、「設計編」の4部構成だ。

 「保険・紛争編」では、瑕疵担保保険や地盤保証といった今日的な話題に触れる。瑕疵担保履行法は、工務店などの住宅供給者を対象とするものだ。ただし保険加入の際には「設計施工基準」を満たす必要があるから、設計者も十分に理解しておかなければならない。

 後半の「調査編」と「設計編」では、実作業のノウハウを解説する。事前調査における地形図や古地図などのデータ活用法、試験データの読み方、基礎の補強筋の入れ方、地盤補強工事のトラブル対策といった実務的な内容が並ぶ。

 一方、間にはさまった「地盤知識編」も、10ページという短さだが、ごく基本的な内容を分かりやすくまとめている。

 地盤が全体的に悪くて建物が一方向に傾く場合より、建物が局所的に変形するほうが重大な損傷を招く。つまり、「住宅地盤の調査では、荷重うんぬんより、いかに地盤の不均質性を見抜くかということのほうが大事」(藤井衛・東海大学教授)など、注意すべきポイントを端的に指摘してくれる。

 また、木造住宅をべた基礎でつくる場合の接地圧は人間の足裏の接地圧とほぼ同じになるというように、具体的にイメージしやすいたとえを挿入しているのも理解の助けになる。

 「地盤」という言葉を聞くとちょっと腰がひけてしまっていた人たちも、1冊目の参考書にどうぞ。




◇特別付録[瑕疵担保時代の『地盤調査』徹底解説ビデオ]【★★★★☆】

 地盤調査のプロセスをビデオで見せる。耐震補強を多く手がけてきた匠建築の保坂貴司氏と、地盤などの調査を行う報国エンジニアリングの金哲鎬氏、小西謙一氏が先生役を務め、実際の事例を通して調査の要点を説明する。

 敷地に行く前に調べること、現地調査で確認するポイント、スウェーデン式サウンディング試験の実施方法、調査結果のデータの読み方などを指南する。スウェーデン式サウンディング(SWS)試験では、自沈層に当たると何の抵抗もなくロッドがすとんと地中にめり込んでいく様子も見られて面白い。

 またSWS試験では、支持力が換算N値10程度になるとロッドは貫入しなくなる。しかし、その下に支持力の低い層が横たわっている可能性もあるため、貫入不可になった場所がそのまま支持層となるわけではない点も注意喚起する。

 本誌の特集も合わせて読むと、SWS試験に頼り過ぎないことの重要性が伝わってくる。




◇連載[現場の矜持] 【★★★☆☆】
 1本目の柱で「勝負」が決まる クレーンオペレーター/千葉清和


 実にさまざまな分野の職人が登場し、建築現場の幅広さと奥深さを教えてくれるこの連載。今回は、ひときわ渋いクレーンオペレーターの登場だ。

 千葉清和さんは言う。「建方のとき、クレーンに向って左右に倒れている柱は起こしやすいのですが、前後に倒れている柱は起こすのが難しいんです。これをすっと立てて、しかも一切揺らさない。これができれば<このオペ(オペレーター)はやるな>と相手に伝わります」。

 なるほどインタビュアーがもらしたように、まるで「剣豪小説」のような世界。このほか、敷地までの路地が狭くてほかのクレーンオペレーターが辞退したケースもあったという。

 「わが社は他社と比べると若干リース料が高いかもしれません。でも、どんなに悪条件の現場でも社員全員にやり遂げる技術と自信があるから、継続して注文がいただけているんです」と千葉さん。

 どの分野でも、技術を磨くことが自社の競争力を高める王道である点に変わりはなさそうだ。





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[今号の評者、建築&住宅メディア研究会 守山久子]

◇守山久子(もりやまひさこ)
住宅・建築ライター。ゼネコン在籍後、バブル期の大量中途採用に紛れて出版社へ転職、2003年からフリーのライターに。著書に「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、「デザインエクセレントな経営者たち」(共著、ダイヤモンド社)など。

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Posted by 管理者 at 11時30分

2009年10月28日(水)

[Casa BRUTUS]2009年10月号 [Casa BRUTUS]

[Casa BRUTUS]2009年10月号・マガジンハウス・特別価格980円


◇ 特集[日本建築、美術・デザインの基礎知識。PART3] 【★★★★☆】
 
  先月京都、今月日本と、カーサの特集は「和モノ」続きです。特にこの、日本の「基礎知識」シリーズは、過去2回の特集がそれぞれムックに仕立て直されているほどで、かなりの人気企画と思われます。

 PART1・PART2は、「基礎知識」らしく、数寄屋や茶室を中心に幅広く取り上げていましたが、PART3は「戦国」に焦点を絞っています。コアな戦国ファンには物足りない内容かもしれませんが、思えば、城郭や兜について書いた教科書は少ないのでは。少なくとも私には新鮮でした。アイテム別に、STEP1〜6に分けた構成です。

 STEP1[城] 「城は見た目が命」と断じ、その見どころ「天守」と「石垣」の「デザインポイント」を解説します。伝統建築との比較を通じて、城郭建築の特殊性を明らかにする2ページが秀逸。

 STEP2[兜] ドラマでお馴染み「愛の前立て兜」や、鳥毛飾り付き兜もさることながら、1ページ大の写真で紹介される、漆黒の兜の数々が珍しい。まるでオブジェのような造形美。

 STEP3[陣羽織] 緋色に金の縁かがり、金と黒の市松模様、白地に赤い水玉・・・改めて並べて見せられると、陣羽織のデザインはかなりモダン。「戦国武将おしゃれグランプリ」も楽しい。ちなみにグランプリは「伊達政宗」でした。

 STEP4[やきもの] 戦国(桃山時代)に生まれた焼きもの、織部・黄瀬戸・志野。それぞれの魅力を、北大路魯山人の言葉を引いて解説。

 STEP5[屏風] 美術館のガラスケースの奥に鎮座する「屏風」が、本来はインテリアアイテムだったことを思い出させてくれる記事。出産時専用の珍しい「白絵屏風」も。

 STEP6[掛軸] 掛け軸の基本構造、裂地の格、表具の真・行・草など、「基礎知識」特集ならではのうんちくが勉強になります。




◇ 記事[日本全国・城下町ガイド‘09] 【★★★☆☆】

「戦国特集」との連動企画。城下町・彦根、高松、島原、川越、津和野、松本の見どころを1〜2ページで紹介。漫画家ほしよりこによる「カーサの猫村さん」が萩、角館を訪ねます。

 「今行きたい城下町40」はおすすめの城と城下町を日本地図上にマッピング。天守が現存しているのか、それとも復興・模擬天守閣なのかを色分けしています。そこ肝心ですね。




◇ 記事[デザインイベント・プレビュー] 【★★★☆☆】

 まもなく始まる東京デザイナーズウィーク(TDW)、デザインタイド、デザインタッチのガイド。会期が5日と短いので、事前に予定に入れておかないと見逃しかねません。今年は、TDWのメイン会場・神宮外苑、デザインタイドのメイン会場・ミッドタウンに加え、伊勢丹新宿店も参加するそう。

 ほか、都内各所の関連イベントには、会期を超えて開催されるものもあり。主なイベントが8ページにまとまったこの記事は、スケジュールを立てるのに役立ちます。





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[今号の評者、建築&住宅メディア研究会 萩原詩子]

◇萩原詩子(はぎわらうたこ)
文系住宅ライター。就職雑誌を編集するつもりで入った会社で住宅雑誌編集部に。以来十余年、住宅とその周辺の取材を続けている。著書に「住宅リフォームの値段としくみがわかる本」、共著に「住宅購入チェックリスト」(ともに東洋経済新報社)がある。

◇建築&住宅メディア研究会
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