建築雑誌オールレビュー

代表/細野透
会員/家成俊勝、大津なほ子、岡部明子、北嶋祥浩、北原さと子、黒崎敏、神徳香子、今野靖人、
   殿木真美子、萩原詩子、平塚桂、守山久子

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2009年11月06日(金)

[住宅建築]11月号 [住宅建築]

[住宅建築]11月号・建築資料研究社・定価2450円


◇特集[小さな居場所に棲む]【★★★☆☆】

 住まいの中に小さな「居場所」が散りばめられた家の特集です。単に開放的なワンルームでもなく、閉ざされた個室でもない、例えば部屋から繋がるちょっと居着くこともできる踊り場のような空間に着目しています。暮らしの中でさまざまな使い方を発見でき、適度に家族とのつながりも絶やさない。そんな「居場所」を通して現代の居心地の在り方を探ります。

 住宅はたっぷり9題。加えて「2009年現在 伊藤寛の最近作から」と題した植田実さんの評論があります。


 ○連続的に展開する小さな場面
   「Piccolo Teatro」… 伊藤寛アトリエ

 ○4つの箱の内と外の空間
   「杉舞台の家」…伊藤寛アトリエ
 
 ○住まいの中の9つの風景
   「タトハウス」…タトアーキテクツ/島田陽建築設計事務所

 ○分節された空間を折線状に繋ぐ
   「オレセン・ノイエ」…アカサカシンイチロウアトリエ

 ○室内にかたちづくられる地形
   「チケイ・ノイエ」…アカサカシンイチロウアトリエ

 ○段差や柱で緩やかにしつらえられた居場所
   「長沼アトリエハウス」…小尾建築事務所

 ○長く回り込む動線が感覚的な広がりを生む
   「鴻池の家」…石川友博建築設計事務所

 ○家の中を通り抜ける路地
   「中澤さんの家」…ニコ設計室

 ○回遊しながらつながる小さな空間
   「富士見町の家」…acaa建築研究所


 どれも大きな家とは言えないながら、一面に広い部屋を造るのではなく、床の段差や吹き抜けなどを介して領域を分節する小さな「場」が、随所に出来ています。いわゆるスキップフロアやロフト的なものとも言えますが、なんとも表現しにくいものもあります。

 最も特徴的な「Piccolo Teatro」は、五角形プランの中に、スペース1からスペース6までの小床が、外壁側に沿って少しずつ上昇しながら数珠つなぎに連続しています。残余の中央空間が吹き抜けとなり、どこにいても他の場所を感じ、家の中に場面をたくさん生み出しています。

 「チケイ・ノイエ」では、室内につくりだされた様々な高低差が、座面や背もたれや、時にはテーブルにもなり、家族それぞれの「居場所」ともなるよう考えられています。

 これら「居場所」を考える時、植田実さんの論が1つのヒントになります。「家族が集まって住むかたちが中心性においてのみ形式的に考えられてきたことが失効しつつある」。「絆はこれまでになく実は求められている」。

 個々の生活スタイルや時間が多様な現代家族。団らんの場に常に並ぶのもしんどいけれど、室にばかり籠るのも寂しい。適度な距離を保ったまま繋がる場があることで、緩やかな家族の絆ができあがる、そんな関係が今風の形になって居心地を造るのでしょうか。

 さらに「居場所」を見つけることは、遊び心も誘発します。あまりつくりすぎず、本能をつつくようなさりげない空間が、特別な居心地ある「居場所」になりそうです。




◇特別記事[トレッドソン別邸]【★★★☆☆】

 日光で、今も大事に住み継がれるアントニン・レーモンド設計のトレッドソン別邸の紹介です。野沢正光さんが訪ねてルポしています。

 竣工は1931年、担当は吉村順三。学生時代より日本建築に傾倒し、実測図を集めていた吉村さんと、西洋の技術と感性の中に日本建築を取り込もうとしたレーモンド氏の最初の共同作品として、評価されているようです。竣工した当時吉村さんは23歳…!その若さに驚きます。

 内部は垂木小屋組の現しがリビング空間を包み、正面妻側には象徴的な石積みの暖炉があります。また大小2つの寝室が、竣工時はリビングとつながるように引き戸で区画され、時に開放的になる日本の住まいに近い設計は、吉村さんの工夫のようです。

 ただこの建物はレーモンド+吉村作品として見るだけでは、ちょっと異なる感情が湧いてきます。ふと感じるのが、フランク・ロイド・ライトの面影です。

 野沢さんの解説によると、寝室、バスルームなどプライベートなウィングと、キッチンとメイド室からなるサービスウィングの明確な分離がライト的であり、小寝室の窓のシンメトリカルな構成もしかりのようです。

 吉村さんがレーモンドの下で、ライト、そしてそれとつながる西洋の系譜をスタディした秀作とも言えますが、こうして考えるとこの住宅はライト、レーモンド、吉村順三という3者が融合した貴重な建物に見えてしまい、もう少し追求したくなります。




◇連載 欧羅巴建築見聞記 第6回[ストックホルム市立図書館]【★★★☆☆】

 名作の紹介が続きます。住宅ではありませんが、グンナー・アスプルンド設計の図書館が登場しました。竣工は1928年。全8頁の連載記事です。

 街中にある、小さな丘陵地。どの方角からも眺められる外観は、直方体の中心に円筒が入ったような、四方対称の構成になっています。そんな単純な構成ながら、内部の唸るような深みある美しい空間にため息ものです。

 中央の円筒形閲覧室は、3層吹き抜けで圧倒的な容積です。下部3分の1の高さが書架となり曲面の壁に埋め尽くされています。その上に白いスタッコ壁の空間がつながって、どこまでも抜けて空に続くように感じます。

 掲載されている写真はこの象徴的な円筒形閲覧室が主ですが、本と人の関係について、神聖な気分になって思いめぐりたくなる、みんなの図書館です。

 本は時代とともに増え続け、図書館も変化を余儀なくされます。既に2006年の国際コンペでドイツ・ワイマールの建築家ハイケ・ハナダ氏による別館の増築が決定し、次なるステップに動き出しているようです。





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[今号の評者、建築&住宅メディア研究会 北原さと子]

◇北原さと子(きたはら さとこ)
 建築設計家。京都の外れで育ち、大学で勉強した後、山本良介アトリエで「京都建築道」を修行。京都の良さを身に染みて感じるようになりました。2005年に北原さと子建築設計室を設立。現場1000回。とにかく通う!が私流です。

◇建築&住宅メディア研究会
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Posted by 管理者 at 11時30分

2009年11月05日(木)

[商店建築]2009年11月号 [商店建築]

[商店建築]2009年11月号・商店建築社・2040円


◇特集[丸の内ブリックスクエア]【★★★☆☆】
 
 「三菱一号館」(東京都千代田区)と、その周辺域を含めた再開発、丸の内ブリックスクエアを取り上げる巻頭記事。全27ページと、ひとつの施設を扱うにはかなり大きなボリュームです。

 ページをめくる限りでは、「三菱一号館」とタワー棟、アネックス棟が、調和しているように見えません。巻末記事「一号館復元から発展させたデザインコンセプト」の説明を読むと、バラの図像やアイアンワークなど“一号館モチーフ”のコラージュと、「煉瓦、石、アイアンワーク」という素材の統一や「凹凸、陰影、ストライプ」という貼り方のルールの統一から、一号館との融合を図った、とのこと。イメージや素材の種類を揃えることで調和がつくり出せる、という前提の根拠がわかりません。「三菱一号館」の徹底的にかつての構法や素材を再現した復元と気ままな商業施設とのアンバランスさばかりが印象に残ります。

 ほとんど建物の感想になってしまいましたがページ構成に触れると、まず広場の植栽計画からはじまるのが新鮮。かなり印象的な庭なので、もう少し詳しい解説があれば。




◇特集[ファッション雑貨店]【★★★★☆】

 メガネ店やバッグ店、アクセサリーショップなど、ファッション雑貨店のインテリアは、相変わらず面白いですね。

 ちなみに以前、「建築雑誌」2009年6月号で飯島直樹氏にその理由を伺ったところ、

1.飲食業界の調子が落ち、物販、特にあまり高額ではない商品を扱う店舗が元気。
2.JCDデザインアワードの応募数も、飲食よりも物販へとシフトする傾向にある。
3.物販で建築家の活躍が目立つのは、安い素材でも立体的で視覚的にインパクトある空間をつくれるから。

と、このように分析していました。

 今回の特集で気になったのは、路面店が多いことと、そのインテリアにお外っぽさがある点です。例えばルスティカ積みモチーフの「HIROKO HAYASHI」(東京都中央区)や、街路と連続するような大きなテーブルがある「カンペール表参道」(東京都渋谷区)、聖堂風のヴォールト天井が奥へと続く「ジャスティン デイビス」(大阪市中央区)というように、外との連続性をいかにつくるか、ということが重要なようです。

 付帯記事も必読。「LIVON 表参道」(東京都渋谷区)を手がけたエイスタディの齊藤良博さんと、「サマンサタバサ新宿ルミネ店」(東京都新宿区)の冨川浩史さんに、コンサルティングやコミュニケーションを重視し、完成までに一体感や人的ネットワークを構築するようなデザイン手法を聞いています。




◇特集[バーカウンターのデザイン]【★★★★☆】

 前半は、井口幸蔵さんと、兼城祐作さんが語る、バーカウンターの計画学。カウンターを壁と垂直や平行にせず、角度をつけると、目の錯覚を利用して広さを感じさせることができる、とか、足を置くフラットバーを15度程度イス側に傾けると掛け心地がよい、などと、具体的です。

 そして後半は、過去2年に掲載したバーカウンターを抽出し、写真と図面、コメントから紹介するというリサイクル企画。18店舗を同じ体裁で1ページずつ紹介する、都市リサーチ風のつくりが面白い。詳細図は断面図が多く、床の防水からカウンターの見付けまで説明していて、実用性がありそうです。





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[今号の評者、建築&住宅メディア研究会 平塚桂]

◇平塚桂(ひらつかかつら)
ライター。主に建築について一般誌中心に執筆。たかぎみ江とともに[ぽむ企画]として活動。京都で12年間過ごした後2005年に上京。京都ではデザイン書店「Sfera Archive」店長なども経験。

◇建築&住宅メディア研究会
代表/細野透
会員/家成俊勝、大津なほ子、岡部明子、北嶋祥浩、北原さと子、黒崎敏、神徳香子、今野靖人、殿木真美子、萩原詩子、平塚桂、守山久子


Posted by 管理者 at 11時30分

2009年11月04日(水)

[庭]190号 [庭]

[庭]190号・建築資料研究社・2940円


◇連載〔日本の庭 巡礼 京都北村美術館 四君子苑の庭〈下〉〕【★★★★☆】

 前号に続き、京都市上京区の「北村美術館四君子苑庭園」を紹介。今回は園内に点在する石燈籠や石塔、水鉢などをクローズアップし、作庭した佐野越守の弟子である石造工芸士の西村金造氏がその一つひとつを仔細に解説する。

 全部で46にもおよぶ石造美術品の多くは、鎌倉時代の作。中には平安時代のものとおぼしき品もあり、表門近くの滋賀県南郷石を使った「三重の塔」は、塔身の長さに独特の特徴が見られ、高麗からの帰化人の手によるものではないかと西村氏は推測する。希少な石造美術品の数々の収集にかけた北村謹次郎の熱情もさることながら、これだけ膨大な作品を庭のしかるべき場所に配しながら空間を造形した佐野越守の手腕にはただ目をみはらされるばかりだ。

 対談「優美な庭の世界を守る」では、42年間にわたって四君子苑の庭を守ってきた池田忍氏と西村氏が、庭園、北村謹次郎、佐野越守について語り合う。この庭にもともとあったのは何本かのムクノキ、エノキ、クヌギだけで、佐野越守は作庭にあたってまず庭じゅうに木を植えられるだけ植えてから、間引いていくことでたたずまいを整えていったのだという。

 広間の軒内に敷き詰められた真黒石(まぐろいし)は、どの石よりも黒いからと賀茂川から採取したものだそうである。色にムラがなく、大きさも揃った敷石は工芸品的な美しさを見せるが、こちらも実際に敷いた何倍もの量の石を採ってきて、そこから選び抜いた石だけを使うという「引き算の造作」がなされている。

 北村謹次郎は、茶事があれば2か月も前から朝晩の打ち水を欠かさなかったという。杉苔ではなく、自然に生える苔が好きだったからだそうだが、そうしたエピソードの数々によって、彼が「稀代の数寄者」と呼ばれたゆえんが浮き彫りにされる。




◇特集〔雑木を植え、楽しむ〕【★★★★☆】

 かつては見向きもされなかった雑木は、里山が失われて自然林が減少するようになってから珍重されるようになり、庭に採り入れようとする人が増えてきた。だが、自然林の育て方は非常に難しく、家と調和させることも容易ではない。せっかく植えても落ち葉掃除が大変だからと、簡単に切ってしまう例も多いようだ。

 この特集では、雑木をいち早く採り入れて既成の庭から脱し、「小島流」と呼ばれる様式を作った京都の名庭匠・小島佐一の門下生で、44年前から自邸に雑木を大切に育ててきた寺下弘氏(近江庭園代表)の庭を訪問。季節感あふれる雑木の魅力と、その手入れのヒントを探る。

 グラビアを見て驚かされるのは、軒先のコナラの幹が、40年以上前に植えられたとは信じ難い細さを保ち、樹高も低く抑えられていること。インタビューに答えて、寺下氏は言う。
「見さかいもなく、ただ枝を短く切り詰めるような強剪定は、子供の躾でいえば虐待に繋がります。元気のない者を叱っても仕方ありません。それよりも逆に励ますでしょう。木だって同じです」。

 人間の教育と同様、愛情を注ぎながら「こう育って欲しい」という理念に基づいて手入れをしなければ、木は思うように生育しないと寺下氏は主張する。また、あらゆる角度やシチュエーションを考慮し、障子に映る夜の枝の影の様子まで考えて植え、剪定しなければならないとも。

 雑木の庭の素晴らしさを実感させられるとともに、寺下氏のその厳しい姿勢に、素人が生半可な気持ちで雑木を植えたのでは、やはり手を余すのだろうなとも改めて思わせられた。




◇連載〔現代の庭を創る 作庭家 河西 力 人間の可能性〕【★★★☆☆】

 モダンアートのように直線と曲線を巧みに組み合わせる造作をすることで、若手作庭家から圧倒的な支持を受ける河西力氏の、代表的な次の3作を紹介。

 ●世界救世教 平安郷研修センター(京都府京都市)
 ●花崎邸(静岡県富士市)
 ●小林邸(静岡県伊東市)

 世界救世教平安郷研修センターのエトランスとそれに続く前庭の、立面の石積から平面の石張へと連続する意匠は、まさに河西氏特有の技法。各施設は水景で結ばれ、建物の直線と浅い流れが描く緩やかな曲線の印象的なコントラストもまた、河西イズムの真骨頂である。

 芝生の鮮やかな緑の中をさらさらと水の流れる、静岡県伊東市の小林邸の庭は、河西氏の最新作。浅い水底にはところどころにカラフルなタイルが配され、流れに沿って植えられたシダレウメやシダレザクラと色彩を呼応させるなど、ディテールにも細やかな工夫が凝らされている。

 河西氏は自作解説で、時代に合わせて庭を創るのではなく、自己の作庭思想を諸々の条件のもとで最大限表現すれば、おのずと新しいものを創ることにつながると述べる。また、時間の経過は庭を古くするのではなく、例えば延段の目地が鮮苔に覆われればむしろその新しい命に目を向けるべきだと、独自の作庭観、自然観を披歴している。




[今号の評者、建築&住宅メディア研究会 今野靖人]

◇今野靖人(こんのやすひと)
フリーランスライター。各種広告コピーから旅行ガイドブック、落語の脚本までジャンルを問わず執筆。

◇建築&住宅メディア研究会
代表/細野透
会員/家成俊勝、大津なほ子、岡部朋子、北嶋祥浩、北原さと子、黒崎敏、神徳香子、今野靖人、殿木真美子、萩原詩子、平塚桂、守山久子


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