建築雑誌オールレビュー

代表/細野透
会員/家成俊勝、大津なほ子、北嶋祥浩、北原さと子、黒崎敏、神徳香子、今野靖人、殿木真美子、
   萩原詩子、平塚桂、守山久子、吉川彰布、脇坂圭一

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2009年12月17日(木)

[新建築]12月号 [新建築]

[新建築]12月号・新建築社・定価2000円


◇作品[プンタ・デラ・ドガーナ再生計画]【★★★★☆】

 設計は安藤忠雄建築研究所。実業家フランソワ・ピノー氏からの依頼で、サンマルコ広場の対岸にある「海の税関(Punta della Dogana)」を、美術館に改造したプロジェクトである。ピノー氏は、グッチグループを傘下に置くPPRグループの持ち主であり、世界で最も規模の大きいオークションハウスのクリスティーズを所有しているという大富豪である。

 安藤氏とピノー氏の付き合いは長い。1996年に出会った後、2001年安藤氏がセガン島ピノー現代美術館のコンペで勝利するも、行政の整備が追いつかずピノー氏が美術館建設を断念。その後、PALAZZO GRASSIの再生計画(新建築2006年9月)を経て、今回のプロジェクトに至っている。

 プンタ・デラ・ドガーナは、岬の形状に沿った三角平面を、南北方向に壁が短冊状に区切る明快な建築である。本計画では、その建築本来のかたちを尊重し、建設当初のかたちに戻すことを原則とし、煉瓦壁、木造トラス小屋組が露にされる。しかし、後の改造でつくられた場所にも柔軟に対応し、別の命を吹き込む。外観に関しても復元と修復が主であるが、開口部に関しては一部新たなデザインを滑り込ませている。

 単なる修復、復元ではなく更新も含め、建設当初の記憶、その後の改修の記憶、そして現在。様々な時間と向き合いながら、絶妙に構成された美術館である。沢山のレイヤーが重なりつつ、一見単純だが、複雑な時間が織り込まれた独特の空間を獲得している。

 これは、世界有数の資産家ピノー氏と建築家安藤氏という取り合わせに、プンタ・デラ・ドガーナという歴史的建築物があって実現されているプロジェクトであり、非常に稀な例だろう。

 今、我々はそこかしこに余っている匿名の建築物に、どうアプローチするのか考えなければいけない状況が多い。それにしても安藤氏の手掛ける建築は、とても厳しく美しい。ファミリーレストランでメニューを復唱されるようなサービスを享受することに慣れきっている軟弱な我々は、もう一度タフな身体を取り戻さなければいけない。安藤氏は「新旧の衝突と摩擦ー対話こそが、都市の未来をつくる原動力なのだと信じている」と述べている。




◇特集 小さな建築のスケールとディテール【★★★☆☆】

 住宅、週末住宅、オフィスと全てで6つのプロジェクトが紹介されている。小さなスケールならではの建ち方、つくり方、構造、温熱環境などをディテールと共に紹介している。

「スモールハウスH」乾久美子建築設計事務所

「House H」藤本壮介建築設計事務所

「O邸」中山英之建築設計事務所

「上馬スモールオフィス」奥山信一研究室

「すごろくハウス」大建met なわけんジム

「上大須賀の家」谷尻誠/suppose design office

 スモールハウスHにおいて乾氏は、「風景がかもしだしている中途半端さの理由がわかってきた。要素がバラバラすぎるのだ」、それらの要素が「田舎っぽい雑多さや中途半端さを演出してしまっている」と述べている。

 乾氏の目の前にあった風景は整理されておらず、どこにでもある日常の風景だったのである。そんな日常の風景に手がかりを見つけ出しながら建物を配置し、外壁の対角線状に内壁を配置し、漠然と広がる雑多な風景を大きなピクチャーウィンドウにより少しだけ日常から切断することに成功している。言い方を変えれば、風景との結びつきをより濃くすることに成功しているといえるのではないか。

 House Hは入れ子状に箱が積み重なっているともいえる。様々な箱は、隣接する箱と連続しながら関係を生み出し、様々に伸縮するように見える。藤本氏は「これは、まったく似てはいないが、一本の木なのではないかと思えてきた」と述べている。木がそこに「ある」ものだとすると、建築はそこに「つくる」ものである。「つくる」ものを「ある」ものに近づけていく時、生活は建築家が用意する場所ではなく、住み手が自ら考える場所に近づいていく気がする。

 O邸は2階建ての母屋に下屋が2つ取り付いている構成である。私自身も直接体験したことのあるこの住宅は、母屋は限りなく誰のものでも無いように見えてくる。下屋部分に生活が濃縮されているからだろうか。母屋の外壁がそのままの仕上げで下屋の内壁になる。これは下屋と母屋の関係を一旦断ち切っていると言える。

 住人が下屋から母屋に移動する感覚と、住人ではない誰かが道から母屋の大きなガラス越しに家の中を見る感覚は、限りなく近く思える。住人への断絶と住人以外への近接が、個人宅であるにもかかわらず開かれ町に溶け込んでいる要因かもしれない。家具が置かれた状況は、どこかバス停に置かれたベンチと近い状況になるのではないだろうか。





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[今号の評者、建築&住宅メディア研究会 家成俊勝]

◇家成俊勝(いえなりとしかつ)
関西大学法学部、大阪工業技術専門学校夜間部を経てdot architectsを共同で主宰。京都造形芸術大学非常勤講師。大阪工業技術専門学校夜間部非常勤講師。archiforum in OSAKA 2008-2009コーディネーター。設計業務以外にも建築、内装、美術の施工にも関わる。

◇建築&住宅メディア研究会
代表/細野透
会員/家成俊勝、大津なほ子、岡部明子、北嶋祥浩、北原さと子、黒崎敏、神徳香子、今野靖人、殿木真美子、萩原詩子、平塚桂、守山久子


Posted by 管理者 at 11時30分

2009年12月16日(水)

[新建築 住宅特集]1月号 [新建築 住宅特集]

[新建築 住宅特集]1月号・新建築社・定価2000円


◇九軒の住宅 【★★★★☆】

 まずは、藤森照信氏と大嶋信道氏が手がけた、「チョコレートハウス」の外壁に銅板を用いた独特な雰囲気に目が留まった。藤森氏が試行錯誤の結果生み出した「手曲げ」「裾折り」「適宜、貼り重ね」の手法を使い、「縄文建築団」がつくりあげていくことで、独特な素朴感を放つ。

 これは、住宅史の流れの中に自分のスタイルを探すのではなく、もっと原初的な「銅」や「炭」といった素材に向き合うことで独自のスタイルを模索するやり方から生まれてくると、藤森氏の文章を読んでわかる。これは、後で出てくる「原邸の家学び」で原氏が言った、集落調査の過程からもっと原初的な自然の中にスタイルを求める方法と重なる。この住宅は12ページに渡り、豊富な図面と多くの写真で紹介され、とてもわかりやすく解説している。

 その他、リカルド・レゴレッタ(メキシコ)を彷彿とさせる色のついた壁に囲まれた住宅は、どこか日本を感じさせる上品な色づかいと、開口の構成が巧みな「K house」等、力作揃いである。

 九軒の住宅は以下となる。

 チョコレートハウス
  藤森照信+大嶋信道(大嶋アトリエ)

 K house
  入江経一+Power Unit Studio

 Steel−Truss
  木村博昭+Ks Architects

 赤堤の住宅
  長谷川逸子・建築計画工房

 花鳥風月+水の家
  竹内巌/ハル・アーキテクツ

 大安寺の家
  飯田善彦建築工房

 空方の家
  堀尾浩建築設計事務所

 湘南のコートハウス
  高野保光/遊空間設計室

 八潮T.B. 8.19m角の栖
  中辻正明+中辻雅江 中辻正明・都市建築研究室




◇ 建築家自邸からの家学び 第3回 後編 原邸【★★★★☆】

 「原邸」の特集の後編である。インタビューでは、芝浦工業大学教授の堀越英嗣氏がポジティブに受け、多面的に会話を広げていく。原氏の建築観がたくさんの言葉を用いて語られていき、読む者をグイグイ惹き付けるインタビューとなっている。

 後半は堀越研究室の研究調査で、妙喜庵待庵、カップマルタンの休暇小屋等、様々な居住空間のダイヤグラムを比較し、30年経過しでもなお、古びてない形態の秘密はどこにあるのかを明確に解き明かしている。

 このシリーズが始まって半年経ち、大学の研究室とのコラボレーションが上手に板についた感じだ。内容もそれぞれ工夫があり、建築をつくるサイドにとって、貴重な資料として積みあがってきている。これは、もはや新たな建築雑誌の新たな境地に達したコーナーと言っても過言ではない。




◇ [展覧会]【★★★★☆】
 
 年末・年始にかけて魅力的な展覧会が写真付で紹介されている。この記事は展示会を知る上で大変参考になる。

 なお、ほとんどの展覧会のホームページのURLが書かれており、ネットで詳しく調べることができる。しかしながら、私的には、アドレスをキーボードで入力するのが億劫と感じてしまう。贅沢な望みを言うのなら、今の時代、ホームページのバーコードを印刷していただけると、より重宝する情報となろう。

 「展覧会」の案内にある、私が前に勤めていた内井昭蔵先生の思想と建築の展覧会に行ってきた。親子三代にわたる建築業績の展示会でもある。ロシア正教会の信者であった内井先生は、その精神性から生まれる真摯な姿勢が後に「健康」という言葉を生み、晩年、「マスターアーキテクト」に代表されるように多くの建築家集団によるものづくりの手法へと繋がっていく。そんな先生の功績がつまった展示会であった。





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[今号の評者、建築&住宅メディア研究会 北嶋祥浩]

◇北嶋祥浩(きたじまよしひろ)
建築家。北海道の大地で動物たちに囲まれながら育つ。内井昭蔵建築設計事務所勤務後、2006年にアビエルタ建築・都市を琵琶湖湖畔に設立。琵琶湖の波の音を聞くためにPCやFAX等の音の出るモノは全て倉庫に追いやり遠隔操作。代わりにフルート、ケーナ、ピアノ、中華なべ、リキュールとおよそ事務所に似つかわしくないモノに囲まれながら設計に勤しむ。 生命体のような「しなやかな建築」をめざす。

◇建築&住宅メディア研究会
代表/細野透
会員/家成俊勝、大津なほ子、岡部明子、北嶋祥浩、北原さと子、黒崎敏、神徳香子、今野靖人、殿木真美子、萩原詩子、平塚桂、守山久子


Posted by 管理者 at 11時30分

2009年12月15日(火)

[日経ホームビルダー]2009年12月号 [日経ホームビルダー]

[日経ホームビルダー]2009年12月号・日経BP社・定価1600円


◇特集[“性能リフォーム”提案の極意] 【★★★☆☆】

 「性能リフォーム」とはバリアフリー、省エネルギー、耐震の「性能向上」を目的としたリフォームのこと。いずれも住宅政策上の推進テーマであり、税金の優遇措置が設けられています。ただ、バリアフリーはまだしも、省エネや耐震は住む人にとって改修の必要性も効果もわかりにくいのが難点。ゆえに「提案の極意」が求められるのでしょう。

 特集は、3人の「達人」に「リフォーム検討者へのヒアリング」と「200万円以内で収まる改修案の作成」を依頼。その様子を同業のプロと一緒に実況、解説します。

 「バリアフリー改修の達人」高齢者住環境研究所の溝口千恵子さんのヒアリングは、住まい手への細やかな配慮が印象的。初回の打ち合わせでは不安や悩みを打ち明けやすい空気をつくる、相手に不安感を与えないよう危険個所はやんわり伝える、などの態度が信頼につながりそう。改修案も、自立生活ができている今のうちに改修しておきたいこと、介護認定が受けられる65歳を待ってから行うこと、に分けられていて、説得力があります。

 「省エネ改修の達人」カザマ技研開発の風間勝廣さんは、データで勝負。過去の施工例の改修前後の温湿度データだけでなく、光熱費削減のシミュレーションも提示。そこに、自宅での実体験を語ることで肉付けします。見積もりでは、断熱改修に加えて換気設備の費用と効果を盛り込んだり、窓断熱に2通りの方法を示したりと、住まい手に選択肢を提供します。費用対効果をきっちり説明しているところに信頼性を感じました。

 耐震改修は、性能リフォームの中でも最もわかりにくいテーマだけに、専門家の誠意と説得力が問われます。「達人」匠建築の保坂貴司さんは、一般診断法より広範囲な調査を実施し、「あえて補助金を使わない選択肢」まで踏み込んで提示。地盤対策では200万円の方法と、20万円ですむ応急措置を提案します。「今できること」「将来実施すべきこと」を分けて解説しており、住まい手も決断しやすいでしょう。

 3人とも「達人」の名に恥じない仕事ぶり。そのせいか、取材に同行したプロのコメントは、ほんの一言ずつしか入っていないのがもったいない。達人と取材同行者によるプロ同士の意見交換も聞きたかったところです。




◇リポート[瑕疵保険導入、揺れる現場] 【★★★★☆】

 10月に全面施行された「住宅瑕疵担保履行法」。住宅会社にとっては、保険加入のための図書作成、現場検査対応、建て主への説明など仕事が増えるだけでなく、保険料を自社負担する例もあるそうです。

 リポートでは、住宅会社と保険法人、国土交通省への取材、実務者へのアンケートを通じて、多角的に現場の実態をあぶり出します。

 保険法人による保険料の違いや、現場検査員の対応のまずさ、事務手続きの面倒などは、どんな仕事の現場にもままある不満でしょう。消費者として気になるのは、現場検査員や構造設計者による以下のような指摘。

「瑕疵保証と比べると瑕疵保険の現場検査が簡略になったことが気がかりだ」(瑕疵保険と瑕疵保証の現場検査をともに経験した検査員)「耐力壁関連などの瑕疵が発生しやすくなったのではないかと心配だ」

 「瑕疵保険の現場検査だけでは、建物の構造耐力が建築基準法に適合していることをチェックしきれないだろう」(設計事務所勤務の構造設計者)

 書類の記載方法や手続きなどは、制度が定着するにつれて整理されていくでしょうが、「そもそも、瑕疵保険の検査はこれでいいのか」が検証されることはあるのでしょうか。将来、大きな地震が起きて初めて問題発覚、などということにならなければいいのですが・・・。




◇ニュース[ほころび現れた完成保証]【★★★★☆】

 一方、10年前に制度設計された「完成保証」。先のアーバンエステート倒産でも保証契約が履行されなかったことが問題になりました。

 不景気下で住宅会社の破綻が相次ぐ中、制度そのものがほころびつつあるようです。記事は、工務店1000社が加入する最大の完成保証制度「ビルダー共済会」の解散を報じます。その背景には、工務店の間に生じた受注や信用の格差があるとのこと。「互助精神を基本とする信用補完時代が過ぎ去り、過払い防止の流れが強まる」と結論づけます。

 「ホームビルダー」誌が今年6月号の特集に取り上げた「工事代金の支払時期のグレーゾーン」が思い出されるところ。着工前に3〜4割を請求し、資材代金の先払いなどに充てるという会社が大半でしたが・・・。

 住宅会社にとっては、ますます厳しい時代になりそうです。




[今号の評者、建築&住宅メディア研究会 萩原詩子]

◇萩原詩子(はぎわらうたこ)
文系住宅ライター。就職雑誌を編集するつもりで入った会社で住宅雑誌編集部に。以来十余年、住宅とその周辺の取材を続けている。著書に「住宅リフォームの値段としくみがわかる本」、共著に「住宅購入チェックリスト」(ともに東洋経済新報社)がある。

◇建築&住宅メディア研究会
代表:細野透
会員/家成俊勝、大津なほ子、岡部明子、北嶋祥浩、北原さと子、黒崎敏、神徳香子、今野靖人、殿木真美子、萩原詩子、平塚桂、守山久子


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